マラソン大会の出走権特約について

 先日、あるマラソン大会の代理出走が話題となっていた。
 ハーフにエントリーした男性と5キロにエントリーした女性とが、それぞれ入れ替わって走ったというものだ。
 女性のゼッケンで5キロを走った男性が入賞してしまったことで発覚した。
 両名とも失格となったようだ。
 なぜ、失格となったかというと(私自身が確認したわけではないが、おそらく)大会規約で代理出走は認めないとなっていたからであろう。
 代理出走を認めると、緊急時の連絡先が不明となってしまう点、大会記録が不正確となってしまう点などから、この特約自体の合理性はあるといえる。
 同趣旨で、出走権の譲渡も認められていないことが大多数である。

 しかしながら、問題点の本質は、これらの特約の有効性だけにとどまらない。
 本来であれば、出走権のキャンセルによる代金不返還特約についても合わせて考えなければならないからだ。
 市民ランナーとしては、仕事や体調の都合により大会に参加できない事態となっても代金不返還特約によって、エントリー代が返ってくるわけではないので、それならば、もったいないから代わりの人に走ってもらおうと考えるわけである。

 ここで留意しておかなければならない点は、出走しない以上、その対価であるエントリー代は返還されるのが原則であるということだ。
 たとえば、エステに通う契約をして、途中で通えなくなったら、その分は精算して相当額を返還しなければならないというルールも特定商取引法に定められている。
 また、消費者に一方的に不利な特約は、消費者契約法によって無効となるものもある。

 たしかに、大会直前のキャンセルのように、主催者が準備をほとんど終わらせているような段階であれば、エントリー代不返還特約の合理性が認めらるケースもあるだろう。
 しかし、現在まかり通っている特約は、いったんエントリーすると、その時期を問わず、一切返金は認めないという画一的なものである。

 インターネット取引でも、ここまで強硬な特約は、いまどき見かけない。

 こういった特約がまかりとおっているのは、エントリー代が比較的少額である点、契約の相手方となるランナー側の良心による点が大きいだろう。

 このように、これらは顕在化していない法律問題といえそうだが、市民の代弁者であるべき法律実務家としては、出走者側のモラルを批判するだけでなく、こういった大会の代金不返還規約自体の見直しもされなければならないと考える。

最高裁判決を忘れない

 今回の最高裁判決は裁判外の和解に関するものであるため、裁判業務をさほどしない司法書士の中には、関心が高くない方もいるかもしれない。
 しかしながら、司法書士である以上、自分には関係ないでは済まされない。
 この最高裁判決は、司法書士制度の敗北というべきであるからだ。
 繰り返すが、立法当初、適法とされていた解釈が10余年の時を経て、最高裁判所によって覆されたのである。司法制度改革の狭間で、まるで、司法書士制度が揺れ動いているかのように。
 これに司法書士にとって肯定的な意味をあえて持たせるのであれば、それは、この敗北を糧にして、将来的に、司法書士制度が目覚ましい発展を遂げ、失った職域を取り戻すこと、さらには、新たな職域をつかみ取ることである。
 一朝一夕に叶うことではないだろう。
 私自身、この悔しさを胸に秘めながら司法書士として生き、そして、おそらくは無念を晴らす機会に恵まれることのないまま、死んでいくだろう。
 しかし、幾代の後には、司法書士業務のうち、司法判断を仰ぐ場面がまたやってくるはずである。その業務は、裁判業務ではなく、登記業務なのかもしれないし、企業法務、後見業務、31条業務なのかもしれない。
その時まで、司法書士が今回の敗北の悔しさを糧にして絶え間ない努力を続けており、その結果、独自の専門職能として社会から求められる存在であり続けていれば、司法書士制度にとって、きっと今回とは異なる結論が出るだろうと信じている。
 だからこそ、今回の最高裁判決を、裁判業務をする司法書士だけの問題としてはならない。
 すべての司法書士が、この敗北を後世の司法書士に伝えていかなければならないのだ。

受任通知の考え方

 最高裁判決によって、140万円を超える債務に関する任意整理は受任できなくなったので、当然、代理人として受任通知を出すことはできない。
 一方で、複数の債権者からの各々140万円を超える債務があり、破産手続に関する裁判書類作成関係業務として受任する場合に債権者に通知する通知は、個別の債権を、いったん任意整理として受任し、代理人として債権調査をした後、支払い不能状態であることが確定的となってから、あらためて裁判書類作成関係業務として受任しなおすのか、それとも、当初から裁判書類作成関係業務として受任し、裁判書類作成関係業務の一環として債権調査をするのかといったように業務に関する考え方が別れていたところである。
最高裁判決により前者の考え方によることはできなくなったものの、後者の考え方は依然成り立つのだから、これからは後者の考え方に沿った受任通知を出すべきことになるだろう。

受益額説に沿った過去の受任事件への影響

 過去に司法書士が140万円を超える債務の裁判外の和解をした業務において依頼者との委任契約および債権者との和解契約の効力が問題となるところだが、最高裁判決で判断された内容は、不法行為による損害賠償請求であり、契約の存続自体は何ら判断されていないため、直接には、いずれの契約の効力にも影響はない。
 また、不法行為による損害賠償請求をされたとしても、請求された司法書士は立法担当者の見解および日本司法書士会連合会の見解に従って業務を行っていたのであるから、不法行為の要件事実となる過失はないし、また、正当業務行為にもあたると考えられる。
 したがって、これらを理由に、司法書士は支払いを拒むことができるだろう。
 もっとも、冒頭に述べたとおり平成26年5月29日の和歌山訴訟控訴審判決で受益額説は否定されており、下級審判決とはいえ、司法書士の関心が高い判決であり、この判決の影響を受け、近年、受益額説による受任は慎重になっていた傾向があるため、最高裁判決による過去の実務への影響は、現実には、ごく限定的と思われる。

最高裁判決により素朴な疑問が生じ得る業務

最高裁判決が出た以上、その判断には従わねばならない。問題は、従うべき最高裁判決の射程である。
 前述のとおり、最高裁判決では、債権の額が140万円を超える場合には、裁判外の和解について代理できないと判断されており、この業務を受任できなくなったのは当然である。
 さらに実務的な側面から掘り下げるため、とくに検討しなければならないのは、①「債権の額」、②「裁判外の和解」の2点である。
①は、約定債務の額なのか、利息制限法引き直し後の額なのかといった債務整理特有の問題にとどまらず、一般民事事件では、とりわけ慰謝料請求等で、相手方主張の額なのか、こちらが妥当と考える額なのかといった問題に影響する。
前者で注意すべきは、たとえば、140万円を超える約定債務において、引き直し計算をすると、140万円以下の過払いとなる不当利得返還請求事件のケースである。このケースでは、一見、基準となる債権の額が約定残債務なのではないかと思われるかもしれないが、依頼の内容が過払い金請求であれば、訴訟物は不当利得返還請求権となり、過払いの額が基準となるので、最高裁判決の射程には含まれない。
もっとも140万円を超える約定債務において、引き直し計算をすると、140万円以下の債務となり、その債務の分割弁済をする任意整理の依頼は、慎重に対応しなければならない。今では債権者が争うケースは少ないと思われるが、仮に引き直し計算による差額に紛争性がある場合には、裁判外の和解業務としての受任は差し控えるべきであろう。
 ②は、債権の額が140万円を超えると、できなくなるのは裁判外の和解だけなのか、債務弁済調停や特定調停の代理であればできるのか、また、裁判外の和解はできないが、それに関する相談だけであればできるのかといった問題が生じる。
 たとえば、140万円を超える債務でも、条文上は、債務弁済調停や特定調停であれば、司法書士法3条1項6号ニを根拠に代理業務として受任できると考えられる一方で、司法書士法3条1項7号として受任できない以上、債務弁済調停や特定調停の代理業務としても、実質上、受任できないとする考えもあろう。
また、債務弁済調停や特定調停の代理業務として受任できるとすると、その前提となる相談は、同項6号ニを根拠に応じることができるとする考えもある一方、同項7号を根拠に応じることができないとする考えもあろう。
以上の問題は、やがて日司連から明快な回答があるだろうが、それまでの間も、司法書士各自が自分の頭で考えて、適切な判断をしておくことが重要である。
プロフィール

Author:赤松 茂
あかまつ司法書士事務所
静岡県沼津市下河原町48番地

【TEL】055-963-8002

【Mail】 quick-response@nifty.com

(平成26年5月に事務所移転しました。)

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