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最高裁判決により素朴な疑問が生じ得る業務

最高裁判決が出た以上、その判断には従わねばならない。問題は、従うべき最高裁判決の射程である。
 前述のとおり、最高裁判決では、債権の額が140万円を超える場合には、裁判外の和解について代理できないと判断されており、この業務を受任できなくなったのは当然である。
 さらに実務的な側面から掘り下げるため、とくに検討しなければならないのは、①「債権の額」、②「裁判外の和解」の2点である。
①は、約定債務の額なのか、利息制限法引き直し後の額なのかといった債務整理特有の問題にとどまらず、一般民事事件では、とりわけ慰謝料請求等で、相手方主張の額なのか、こちらが妥当と考える額なのかといった問題に影響する。
前者で注意すべきは、たとえば、140万円を超える約定債務において、引き直し計算をすると、140万円以下の過払いとなる不当利得返還請求事件のケースである。このケースでは、一見、基準となる債権の額が約定残債務なのではないかと思われるかもしれないが、依頼の内容が過払い金請求であれば、訴訟物は不当利得返還請求権となり、過払いの額が基準となるので、最高裁判決の射程には含まれない。
もっとも140万円を超える約定債務において、引き直し計算をすると、140万円以下の債務となり、その債務の分割弁済をする任意整理の依頼は、慎重に対応しなければならない。今では債権者が争うケースは少ないと思われるが、仮に引き直し計算による差額に紛争性がある場合には、裁判外の和解業務としての受任は差し控えるべきであろう。
 ②は、債権の額が140万円を超えると、できなくなるのは裁判外の和解だけなのか、債務弁済調停や特定調停の代理であればできるのか、また、裁判外の和解はできないが、それに関する相談だけであればできるのかといった問題が生じる。
 たとえば、140万円を超える債務でも、条文上は、債務弁済調停や特定調停であれば、司法書士法3条1項6号ニを根拠に代理業務として受任できると考えられる一方で、司法書士法3条1項7号として受任できない以上、債務弁済調停や特定調停の代理業務としても、実質上、受任できないとする考えもあろう。
また、債務弁済調停や特定調停の代理業務として受任できるとすると、その前提となる相談は、同項6号ニを根拠に応じることができるとする考えもある一方、同項7号を根拠に応じることができないとする考えもあろう。
以上の問題は、やがて日司連から明快な回答があるだろうが、それまでの間も、司法書士各自が自分の頭で考えて、適切な判断をしておくことが重要である。

最高裁判決当日

平成28年6月27日15時に話を戻そう。
 傍聴席の一番前に座った私は、裁判長が語りだすのを待っていた。
 裁判長は、判決主文のみではなく、判決要旨をも語った。その内容は、私の期待に反して、双方の上告を棄却し、判決要旨において債権者主張額説を認めるものであった。(相手方は、上告受理申立て理由においては、いわゆる総額説の採用を全面に主張しており、控訴審で認められていた債権者主張額説については上告受理申立て理由としていなかった。)
 立法趣旨が最高裁判所によって覆された瞬間である。
 司法書士側の主張と弁護士側の主張が異なるという対立構造で報じられることが多いが、司法書士各位は十分ご承知のとおり、司法書士側の主張である受益額説は、司法書士が独自に考え出した見解ではない。受益額説こそ、法務省立法担当者が執筆した「注釈 司法書士法」に明記された見解であり、受益額説の考え方が、まさに立法趣旨だったのである。実務上も、司法書士は、受益額説により個々の債権が140万円を超えた額を有する多重債務事件を任意整理として数多く受任してきた実績があり、多重債務被害救済に寄与してきたのである。
 すなわち、司法書士側にとっては、勝って当たり前、言い方を変えれば、勝っても職域の範囲という意味においては何も得ることがない争点と言うこともできる。それが公権的解釈によって否定されたのだ。
 いとも簡単に立法趣旨は覆ってしまうものなのだな。
 私は、裁判長の言葉を聞き締めながら、そう考えていた。

最高裁判決に至るまで

平成28年6月27日15時、私は、最高裁判所にいた。
 いわゆる和歌山訴訟の判決言い渡しに立ち会うためである。

 事の発端は8年ほど前に遡る。
 神戸地方裁判所で、平成20年11月10日に、「訴訟代理権の範囲と裁判外代理権の範囲とは一致する(下線筆者)」とする債権者主張額説を採用し、調停代理権の範囲と裁判外代理権の範囲とが一致するとする受益額説を否定する判決が言い渡された。
以来、司法書士の職域に関する紛争が顕在化し、次々と裁判で争われるようになり、そのような状況下、縁があり私は、日司連で、その対応を検討する部署に所属することになった。この部署では、訴訟によって解釈の対立が顕在化した簡裁代理権の範囲の検討が職務となる。平成20年から、複数の任期をまたいで継続してきた。
 その間、前述のいわゆる神戸訴訟は、平成21年10月16日に控訴審で判決が言い渡され、「司法書士の代理権の範囲について、解釈を異にする見解があり、公権的解釈も確立していない状況においては、そのいずれかの見解に立って、(中略)違法であると一概にいうことはできない」と、受益額説と債権者主張額説の当否に関する判断は回避された。
 その後、広島でも同様の訴訟が提起され、平成24年2月27日には、広島地方裁判所福山支部でも、不確定要素が多い、予測性が困難である、債権者からの訴訟に対して被告代理人となれないのは法的安定性を害すなどを理由として、受益額説が否定された。しかし、このいわゆる広島訴訟も、平成24年9月28日に控訴審で、故意過失の不存在、行為と損害との間の因果関係の不存在などを理由として、受益額説と債権者主張額説の当否に関する判断が回避されたまま、相手方である一審原告の請求を棄却する判決が言い渡された。
 この時期、広島と同時進行で、和歌山でも同様の(むしろ争点はさらに多いが、ここでは説明を受益額説のみに絞る)訴訟が提起されており、平成24年3月13日に和歌山地方裁判所で、「認定司法書士が代理できる裁判外の和解は、当時明らかである貸金業者等が主張する約定債務額と当時貸金業者等に譲歩を求める和解に係る債務額の差額(ただし、分割弁済がなされる場合には分割の利益を付加することになる。)」として、受益額説を支持する判決が言い渡された。ここに来て、ようやく立法趣旨に沿う判決が現れたことになる。
 しかしながら、和歌山訴訟の控訴審では、平成26年5月29日に、神戸訴訟第1審や広島訴訟第1審と同じ理由に加え、さらに「簡明」、「便宜」をも理由に、「(司法書士法3条1項)同項7号の裁判外の和解等の代理権の範囲は、その紛争が訴訟になったと想定した場合の訴訟代理権の範囲(同項6号イ)と一致する」として、受益額説を否定する判決が言い渡された。この控訴審判決に対し、控訴人、被控訴人の双方が上告提起及び上告受理申立てをしたところ、双方の上告受理申立てが受理され、平成28年6月2日に口頭弁論が開かれ、同月27日に判決言い渡しとなったわけである。
 受益額説が否定された和歌山訴訟控訴審に関して、最高裁判所で、口頭弁論が行われると知ったときに、私は、まず、受益額説が認められる判決が言い渡されるのではないかと予想した。最高裁判所では、一般に、控訴審の判断を覆す場合に、口頭弁論が行われることが多いと聞いていたからである。
 もっとも、相手方である被控訴人の上告も受理されていることが気がかりではあった。
 もしかしたら、最高裁判所では、受益額説を単純に認めるのではなく、たとえば、複雑な債務整理の場合には個々の簡裁代理権は消滅するといったように簡裁代理権の効力を制限するような判断、もしくは、立法当時の状況と現在の状況とを比較し、当時は受益額説が適法な解釈であったものの、今となっては簡裁代理権を付与した役割は終焉したとして、将来については受益額説を否定する趣旨の判断等が下されるのではないかという危惧も頭の片隅にあり、想定外の事態を払拭するため、当日までに様々なシミュレーションをした。
 このシミュレーションの中には、正面から債権者主張額説を認める今回の最高裁判決の内容もあった。最悪の結論の一つとして。


最高裁平成28年6月27日に関する留意事項

1 最高裁平成28年6月27日判決の要旨
 最高裁判所で、債務整理を依頼された認定司法書士は、当該債務整理の対象となる個別の債権の価額が司法書士法3条1項7号に規定する額(140万円)を超える場合には、その債権に係る裁判外の和解について代理することができないと判断された。
 判断された内容について、誤解されている方もいらっしゃるようなので、ここで詳しく説明することとする。

2 判断された業務
 たとえば、貸金業者Aに150万円、貸金業者Bに50万円の借り入れがあり、それらの借入債務について分割払いを求める債務整理の相談が司法書士にあった場合を想定する。
 最高裁判所の判断によると、この場合、司法書士は、貸金業者Aに対しては裁判外の和解業務として受任することはできないが、貸金業者Bに対しては裁判外の和解業務として受任することができる。
 今までは、貸金業者Aの債権についても分割払いの経済的利益を算定すると140万円以内に収まるという理由で、司法書士は代理できると司法書士側では考えていたが、それが最高裁判所では認められなかったことになる。
 一方、この場合、貸金業者Aと貸金業者Bとの債権額の総額が200万円となることから、司法書士は、いずれの貸金業者に対しても裁判外の和解業務として受任できないとする考えもあったところ、この点について、最高裁判所は、明確に否定し、代理業務の範囲は、貸金業者ごとの債権額で考えると、司法書士側の従来からの見解どおりの判断がされている。

3 判断されていない業務
 最高裁判所では、140万円を超える過払い金の請求については、判断されておらず、このようなケースでは、従来どおり司法書士は裁判書類作成関係業務として受任することが認められている。
 また、140万円を超える債権について分割払いを求めるケースでも、司法書士が特定調停の代理人となることについては何ら判断されていない。

4 まとめ
 以上のとおり、司法書士の業務として認められないと判断されたのは、貸金業者1社に対して140万円を超える債権の裁判外の和解業務のみであり、その他の業務については、司法書士は、従来どおり受任することができるのである。

債権法改正と公証人手数料

 国会で審議中の債権法改正では、消費貸借契約が要物契約のみだったものから、要物契約と諾成契約と併存さえるものとなる。
これによって、技術的な面ではあるが、公証人手数料が影響を受けることになるだろう。
すなわち、公証人手数料が現行のままであれば、片務契約(要物契約)では額面どおりだが、双務契約(諾成契約)では倍額となるからだ。
 http://www.koshonin.gr.jp/hi.html

 改正後、締結された消費貸借契約が要物契約か諾成契約かというチェックは登記原因に影響を及ぼすことから、司法書士にとって重大事であるのは当然であるが、公証人もまた同様となりそうだ。否、報酬額に直結する分、より大きな関心事となるのかもしれない。

プロフィール

赤松 茂

Author:赤松 茂
あかまつ司法書士事務所
静岡県沼津市下河原町48番地

【TEL】055-963-8002

【Mail】 quick-response@nifty.com

(平成26年5月に事務所移転しました。)

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