意思表示の到達擬制について

民法(債権関係)改正につき、次の原稿を日本司法書士会連合会に寄稿したので、参考までに、こちらのブログにも掲示しておく。
日本司法書士会連合会HPでは、11月中旬以降にアップされる見込みだ。

● 意思表示の到達について
 契約の内容どおりに履行することを請求する際の請求の意思表示、また、契約の内容が履行されないため契約を解除する際の解除の意思表示などは、その意思表示が相手方に到達しなければ効力が生じません。
 相手方にとって、自分の知らないうちに法律効果が生じていたなどの不測の事態が生じないよう配慮されているわけです。
 これを到達主義の原則と言います。
 今回の民法改正では、今までは例外的に到達主義が取られず、発信主義とされていた契約の承諾についても、原則どおり到達主義が採用される見込みですので(現民法第526条第1項の削除)、より一層、到達主義の原則が貫かれることになりました。
 (契約の承諾が発信主義とされていたのは、通信手段が発達していなかった時代に、迅速に契約を成立させる必要があったからなのですが、通信手段の発達した現代社会においては、到達主義を採用しても契約の成立に時間的に影響を与えることが少ないと考えられたため、改正されることになりました。)
 しかしながら、到達主義には、相手方が意図的に意思表示を受領しないと、法律効果が生じないという弊害もあり得ます。
 こういった弊害が横行すると、生ずべき法律効果が生じず、取引社会も停滞してしまいますし、何より、狡猾な相手方を放置することにもなりかねません。
 相手方のこのような行為態様については、次のような裁判例がある状況でした。

● 相手方が意思表示を受領しないケースに関する裁判例
 裁判例では、相手方が意思表示を受領しなくても、相手方側の行為態様などを考慮して到達を認めるものがあります。
 たとえば、①相手方の同居人が本人の不在などを理由に故意に受領を拒絶した事案で書留内容証明郵便の到達を認めたもの(大判昭和11年2月14日民集15巻158頁、大阪高判昭和53年11月7日判タ375号90頁)、②相手方が不在配達通知書により書留内容証明郵便が送付されたことを知っており、受領も容易であったのに受領に必要な行為をしなかったために留置期間満了により返送されたという事案で、遅くとも留置期間満了時に到達したと認めたもの(最判平成10年6月11日民集52巻4号1034頁)などです。
 もう少し踏み込んで見てみますと、②の裁判例の事案では、遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過によって還付された事案なのですが、相手方が不在配達通知書の記載その他の事情から、その内容が遺留分減殺の意思表示または少なくとも遺留分を含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができ、相手方に受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく受領することができたという事情がありました。
 (ここでは本稿の説明に直接関係がないので、遺留分減殺についての説明は省きますが、詳細は民法第1031条をご参照ください。)

● みなし到達規定の新設~相手方の逃げ得を許さない~
 こういった裁判例を踏まえて、改正法では、「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。」という規定が新設される見込みです(法律案第97条2項)。
 これにより、狡猾な相手方の行為態様によって法律効果が生じないということが防止され、当事者間の公平が一層図られることが期待できます。
 相手方が住所で郵便物の受領を拒絶したり、不在配達通知書を受け取ったのに再配達の依頼や郵便局に赴いて受領することをしなかったりした場合には、原則として、その意思表示が到達すべきであった時に到達したことが擬制されることになるからです。
 この「到達すべきであった時」とは、同居人等による受領拒絶があった場合は、その時点。不在配達通知書が残された場合は、その後受領に必要と認められる相当期間が経過した時点が該当すると考えられます。
 もっとも、ここでいう「正当な理由」とは、既に契約関係にある者(もしくは、その代理人)からの意思表示なのか、未知の者からの内容の不明な郵便物が配達された場合なのかなど、個別の事実関係に即して判断されることになります。
 したがって、事前交渉が一切ない相手方に対して、みなし到達の規定を適用するためには、相手方が郵便物の内容をある程度推測できるような工夫も必要になってくると思われます。
 このあたりが司法書士等の法律実務家の腕の見せ所となるかもしれません。
 また、裁判手続において、相手方が郵便物を受領しないような場合には、既に「書留郵便等に付する送達」という制度(民事訴訟法第107条)があり、この制度との実務的な棲み分けについても、これから具体的に検討されていかなければならないでしょう。


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