日司連民法(債権関係)改正における供託制度に関する意見

日司連が供託制度に関する次の意見を公表した。

http://www.shiho-shoshi.or.jp/association/info_disclosure/opinion/opinion_detail.php?article_id=106

民法(債権関係)改正における供託制度に関する意見

平成24年12月26日

日本司法書士会連合会

第1 民法(債権関係)改正における供託制度の見直しに関する基本姿勢
 供託には、弁済供託、担保(保証)供託、執行(配当)供託、没取供託、保管供託、その他特殊な供託と様々なものがあるが、民法(債権関係)改正との関係においては、とりわけ弁済供託が大きな意味を持つ。弁済供託は、弁済に関する規定の他、債権者不確知の原因となり得る債権譲渡に関する規定等の民法の規定と密接に関連するからである。
 債務者は、契約に基づく債務の履行を債権者が受領しないときには、弁済の提供をすることによって少なくとも債務不履行責任を免れ、債権者からの契約の解除を妨げることができるが、弁済の提供をした後も、その債務の履行をする準備を続けなければならず、その債務を被担保債権とする抵当権等の担保権が設定されている財産を処分できないという不利益も生じる。 これらの不利益から免れるために、債務者若しくは保証人、物上保証人等の弁済をすることができる者(以下、「弁済者」という)の利便に供することを目的として弁済供託の制度がある。この弁済者の利便を図るという制度趣旨をさらに生かすために民法(債権関係)の規定の見直しをすべきである。
一方、債権者は、弁済供託により被供託者となると、供託所に対する供託物の還付請求手続をしなければならず、この還付請求手続において還付を受ける権利を有することを証する書面として確定判決等の公文書が必要となることもあるため、債権者に一定の負担が強いられることは否定できない。
 したがって、弁済供託に関する民法(債権関係)の規定の見直しは、債権者におけるこれらの負担を考慮しつつ、弁済者のために供託制度を利用しやすくするという視点で検討されなければならない。
以上のような認識のもと、当連合会は、今般の民法(債権関係)改正において、供託制度のうち、弁済供託に関する意見を述べる。



 第2以降の【意見の趣旨】では、文末の表現を、原則として、解釈が確立しているものは「明文化すべきである」、解釈に疑義があると考えられるものは「明確にすべきである」、供託実務の変更を求めるものは「認めるべきである(若しくは、認めないものとすべきである)」とした。

第2 弁済供託に関する意見
 1 供託の効果
【意見の趣旨】
 供託の効果は供託の時に生じるとともに、供託物の取戻請求権の行使が解除条件となることを明確にすべきである。
 具体的には、供託の効果が発生する時期につき後記2のとおり改正すべきである。
【意見の理由】
 供託の効果の発生時期については、供託の時点で質権又は抵当権が消滅するとする現在の規定とも親和的であるので、解除条件説に立つことが相当であり、弁済供託の制度を分かりやすいものとするためには、これを明確にすべきである。

 2 供託物の払渡請求権(還付請求権と取戻請求権)
【意見の趣旨】
① 供託によって被供託者が供託物の還付請求権を取得することを明文化すべきである。
② 供託によって保証債務履行請求権が消滅した場合には、現民法の質権や抵当権と同様、供託物の取戻請求を認めないものとすべきである。
③ 弁済者の意思により供託物の取戻請求権を放棄することができることを明文化すべきである。
 具体的には、現民法第496条を次のとおり改正すべきである。
(改正案)
民法第496条(供託物の払渡請求権)
 債権者は、弁済者の供託によって、供託所から、その供託物を受け取ることができる。
2 債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。この場合においては、供託時にさかのぼって債権が消滅しなかったものとみなす。
3 前項の規定は、供託によって保証債務履行請求権、質権又は抵当権が消滅した場合には、適用しない。
4 弁済者は、第2項の供託物を取り戻す権利を放棄することができる。
【意見の理由】
① 弁済供託の制度を分かりやすいものとするために、供託によって債権者が還付請求権を取得するという弁済供託の基本ルールを明文化すべきである。
② 現民法では、質権又は抵当権が消滅した場合には供託物の取戻請求が認められていないが、この趣旨は、「質権・抵当権の復活を認めると、第三者(たとえば、供託後取消前に同じ目的物上に抵当権を取得した者)に不測の損害を及ぼすおそれがある」からであるとされている(磯村保「注釈民法(12)」有斐閣322頁)。
同様のことは、保証債務履行請求権についてもいえる。すなわち、供託によって保証債務が消滅したと信じた第三者が保証人に信用供与をしたケースを念頭においた場合、いったん消滅した保証債務履行請求権が復活すると、その保証人に対する債権を取得した第三者に不測の損害を及ぼすおそれがある。
また、保証債務履行請求権の復活によって、保証人が、この第三者から債務の一括請求を受けるおそれもあるなど後発的に不利益が生じることにもなりかねず、そのような意味において、供託によって保証債務履行請求権が消滅したと信じた保証人の期待を保護すべきである。
③ 弁済者が供託を確定的に有効にしたいと考えても、債権者の受諾行為や供託を有効と宣告した判決が確定するまでの間は、供託物の取戻請求権が弁済者の債権者からの差押等の対象となる余地があり、その債権者から取立て等がされると、弁済者の意思とは無関係に弁済の効果が容易に覆ることになってしまうというリスクを抱えている(供託物の取戻請求権への差押えを認めたものとして、東京高決平成4年6月26日判時1426号82頁)。
このようなリスクを避けるために、弁済者は供託物の取戻請求権を放棄すればよいのだが、この放棄は解釈上認められているにもかかわらず(昭和38年8月23日民事甲第2448号民事局長回答・先例集(3)325頁)、明文の規定がない。そこで、これを明文化することによって、弁済者の不測の不利益を防止するだけでなく、供託制度の安定性を高めることにもなる。
 なお、ドイツにおいても同様の規定がある(ドイツ民法376条2項1号 )。

3 供託原因の見直し
【意見の趣旨】
① 供託原因については、新たな供託原因を創設すべきではない。
② 既存の供託原因である受領拒絶、受領不能、債権者不確知の各規定を見直すべきものは修正し、疑義のある解釈については明確にし、できる限り明文化すべきである。
【意見の理由】
① 弁済者は、債権者が確定し、債権者の所在が判明して弁済を受領できる状態にあり、債権者が弁済の受領に協力するのであれば、供託せずとも、弁済によって債務の消滅という目的を達することができるところ(民法第494条)、新たな供託原因を創設するということは、弁済の目的を超えた弁済供託を認めるということにほかならない(例えば、債権者代位権を行使されたことのみをもって、その第三債務者が供託することを認めるといった場合)。
このような新たな供託原因の創設は、弁済者に弁済の目的を超えた要件の判断(上記の例では債権者代位権が正当なものであるか否か)という負担を課すおそれがあり、債権者に、いたずらに供託物の還付請求手続に関する負担(上記の例では債権者や債務者が供託物の還付手続をしなければならない)を課すことにもなりかねない。
② 既存の供託原因による供託の多くは、供託先例によって運用されているが、判例の変更等によって、この運用が変更されることもあり、安定性に欠ける。また、供託先例においても、供託原因に関する解釈が網羅されているとは言い難い。
 そこで、供託原因に関する解釈を明確にするべく、その明文化に際しては後記4から6のとおり現民法第494条以下の規定を供託原因ごとに整理することを提案するものである。

4 受領拒絶
① 弁済の提供
【意見の趣旨】
 受領拒絶を供託原因とする供託は、弁済の提供があったことを要件とすることを明文化すべきである。
具体的には、次のように明文化すべきである。
(改正案)
民法第○○条(受領拒絶を供託原因とする供託)
 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という)が債権者に対して弁済の提供を行い、債権者がその受領を拒むときは、弁済者は債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。
【意見の理由】
 債務不履行責任を免れるためには弁済の提供が必要であるところ、さらに、債権者による受領という過程を経ないで債権の消滅という効果を発生させる供託においては弁済の提供が必要と解することが相当であり、供託実務においても、この解釈に基づき運用されているので、明文化すべきである。

② 口頭の弁済の提供を不要とする特例
【意見の趣旨】
 弁済者が債権者からあらかじめ弁済の提供の受領を拒絶する意思表示を受けており(債権者において弁済を受領しない意思が客観的事情に基づき明確と認められる場合を含む)、弁済者が更に弁済の提供をしても債権者が翻意しないことが客観的事情に基づき明確に認められるときなどのように弁済に関する契約関係が係争中である場合には、受領拒絶を供託原因とする供託の要件としての口頭の弁済の提供が不要となることを明確にすべきである。
具体的には、次のとおり改正すべきである。
(改正案)
民法第493条(弁済の提供の方法)
 弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。
2 弁済者が債権者からあらかじめ弁済の受領を拒む意思表示を受けており、弁済に関する契約関係に争いがある場合には、前項の規定を適用しない。
民法第○○条(弁済の提供を不要とする場合の特例)
民法第493条2項に該当する場合は、弁済者は、民法第○○条(受領拒絶を供託原因とする供託)の弁済の提供をすることなく供託することができる。
【意見の理由】
 債権者が契約そのものの存否を否定する等、債権者の受領拒絶の意思があらかじめ明確であり、債権者が翻意する可能性がない場合には、口頭の弁済の提供すらせずに供託することができるということについては確立した判例がある(最判昭和32年6月5日民集11巻6号915頁)。また、供託実務においても、あらかじめ債権者から賃料の受領を拒絶され、係争中である場合には受領しないことが明らかであるとして、口頭の弁済の提供をすることなく供託できることを認めており(昭和37年5月31日民事甲第1485号民事局長認可5問・先例集(3)110頁)、これを明確にする必要がある。
 なお、口頭の弁済の提供すら不要とする契約類型は、賃貸借契約のような継続的契約に限らず、単発の売買契約等においても、債権者の不受領意思が明確のときには、口頭の弁済の提供すらすることなく供託できることが認められているので(最判昭和46年9月21日民集25巻6号857頁、東京高判昭和33年1月30日判時143号24頁)、不受領意思明確の判断基準は、継続的契約であるか否かにかかわらず、明確にされなければならないものと考える。

5 受領不能
【意見の趣旨】
 受領不能を供託原因とする供託において、持参債務の事実上の事由、法律上の事由、取立債務の事実上の事由といった要件を明文化すべきである。
 具体的には、次のとおり改正すべきである。
(改正案)
民法第○○条(受領不能を供託原因とする供託)
 債権者が次に掲げる事由により弁済を受領することができない場合は、弁済者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。
一 持参債務における債権者の一時不在等(ただし、弁済者が弁済のためにすべき行為をしなかったときを除く)、若しくは居所不明等の事実上の事由
二 持参債務における債権者の受領能力の不存在等の法律上の事由
三 取立債務における弁済者が民法第493条1項ただし書に規定する受領の催告をしたにもかかわらず(ただし、受領の催告が不要とされる場合を除く)、債権者が取立てをしない等の事実上の事由
【意見の理由】
 受領不能を供託原因とする供託には、持参債務においては、事実上の不能と法律上の不能とがあり、取立債務においては、原則として弁済者の受領の催告が必要とされているにもかかわらず、現在の条文からは読み取ることができないため、これを明文化することが望ましい。
 持参債務における事実上の不能となる事由の一つである一時不在や交通途絶等については、債権者に一時的に弁済できないという事実をもって、弁済者が直ちに供託できるとなると、債権者に不利益を課すおそれもあるため、弁済者に再度の訪問若しくは口頭の弁済提供その他の弁済方法の検討等の信義則上弁済のためにすべき行為が求められる。居所不明等については、郵便物の受取人不明の場合には転居先を調査することなく供託することを認めた先例(昭和32年3月2日民事甲第422号民事局長回答・先例集794頁)があることなどから、弁済者に特段の行為は不要であると考えられる。
 以上の事実上の事由とは別に、受領能力の不存在等については、法律上の事由として明示した。
 取立債務においては、原則として、弁済者からの口頭の弁済の提供をし、受領を催告することが求められるので、例外規定とともに、これを明示した。

6 債権者不確知
① 供託原因の立証責任
【意見の趣旨】
 債権者不確知を供託原因とする供託について、弁済者の過失の有無についての主張立証責任を債権者が負うことを明確にすべきである。
 具体的には、次のとおり改正すべきである。
(改正案)
民法第○○条(債権者不確知を供託原因とする供託)
 弁済者が債権者を確知することができない場合は、弁済者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。ただし、弁済者に過失があったときは、この限りでない。
【意見の理由】
 弁済者が債権者不確知に陥るのは、債権者の事情によることが多いと考えられるので、弁済者に、債権者を確知することができないことについての過失に関する主張立証責任を負わせるのは相当でない。
この主張立証責任を債権者が負うことによって、例えば、譲渡人から将来債権の譲渡を受けたという通知が債務者にされ、譲受人から請求を受けたところ、さらに譲渡人から債権譲渡契約に問題があるので、譲渡の通知を撤回する等の通知を受けたようなとき、譲渡人が債権譲渡を否認しているのであれば、債務者は、譲渡人の言い分を踏まえ、債権者を確知できないことについて自らの無過失を証明することなく、債権者不確知を供託原因として供託することができ、弁済者の利便に資することになる。
(以下②から⑤について)
 債権者不確知を供託原因とする供託として代表的なものに債権譲渡の譲渡人と譲受人との間でその有効性が争われている場合があり、このような場合は「弁済者が債権者を確知することができない場合」に直ちに該当するが、他にも債権者を確知することができない場合としては様々なものがある。これらの中には、直ちに「弁済者が債権者を確知することができない場合」に該当するといえないものもあるが、供託実務上の疑義をなくすために、後記②から⑤において掲げる各債権については、原則として債権者不確知を供託原因として供託できるということを認める方向で検討することを提案するものである。

② 債権者に相続が開始した債権
【意見の趣旨】
 債権者に相続が開始した場合は、債権者不確知を供託原因として供託することを認めるべきである。
 具体的には、次のとおり改正すべきである。
(改正案)
民法第○○条(債権者に相続が開始した債権に関する債権者不確知)
 債権者に相続が開始した場合は、その債権の弁済者は、民法第○○条(債権者不確知を供託原因とする供託)の規定により供託することができる。
【意見の理由】
 供託実務においては、弁済者が債権者の相続人を事実上知ることができない場合は債権者不確知を供託原因として供託することができ、この場合、債務者は相続人及び相続放棄の有無等を調査する必要もないとされている(昭和37年7月9日民事甲第1909号民事局長認可6問・先例集(3)155頁)が、相続人が明らかであるものの相続分が不明である場合には、弁済者は各相続人に法定相続分に応じた弁済をすれば足りるので、債権者不確知を供託原因とする供託ができないとされている(昭和47年度全国供託課長会合同決議6問・先例集(5)244頁)。
 供託実務では、弁済者が相続人を偶然知っていたときには法定相続分に応じた弁済をすればよいとされているが、通常、相続人の全てであるかどうかは、戸籍上の調査を経なければ確定できないものであり、戸籍上の調査をしないで弁済をしてその弁済が有効とならないことの危険を避けるためにも調査が不可欠となろう。つまり、戸籍上の調査や相続放棄等の調査をしなければ相続人を事実上知ることができないといえる。一方、そのような調査をする必要はないという実務運用もあることから、債務者にとっては無用の混乱を招くことになる。
 したがって、債権者に相続が開始した場合はそのことのみをもって供託することができると明定すべきである。このように明定したとしても、債務者が法定相続分に応じた弁済を選択する道を閉ざすものとはならない。

③ 譲渡禁止特約付債権
【意見の趣旨】
 譲渡禁止特約付の債権が譲渡された場合は、債権者不確知を供託原因として供託できることを明文化すべきである。
 具体的には、次のとおり改正すべきである。
(改正案)
民法第○○条(譲渡禁止特約付債権に関する債権者不確知)
 譲渡禁止特約のある債権が譲渡された場合は、その債権の弁済者は、民法第○○条(債権者不確知を供託原因とする供託)の規定により供託することができる。
【意見の理由】
 譲渡禁止特約付の債権が譲渡された場合は、譲受人の善意悪意といった主観により対抗関係が決せられ(現民法第466条2項ただし書)、この証明を債務者に行わせるのは困難を強いることになる。供託実務上も、このような場合の供託を認めており(昭和36年7月31日民事甲1866号民事局長回答・先例集(3)36頁)、明文化すべきである。
 なお、譲渡禁止特約付債権に対し差押や転付命令が発せられた場合は、現在の運用では譲受人の善意悪意は問題とならないので(最判昭和45年4月10日民集24巻4号240頁、昭和45年10月21日民事甲第4425号民事局長通達・先例集(5)186頁)、本提案では当然のことながら差押や転付命令は含まず、譲渡に限るものである。

④ 債権譲渡通知等が同時に到達した債権
【意見の趣旨】
 第三債務者に対し複数の債権譲渡通知や転付命令が同時に到達した場合は、第三債務者は債権者を確知することができないものとみなし、債権者不確知を供託原因として供託することを認めるべきである。
具体的には、次のとおり改正すべきである。
(改正案)
民法第○○条(債権譲渡通知等が同時到達した債権に関する債権者不確知)
 複数の債権譲渡通知又は転付命令が同時に到達した場合は、その債権の弁済者は、債権者を確知することができないものとみなし、民法第○○条(債権者不確知を供託原因とする供託)の規定により供託することができる。
【意見の理由】
 現在の供託実務では、判例(最判昭和55年1月11日民集34巻1号42頁)を受け、複数の債権譲渡通知等が到達した場合には債権者不確知を供託原因として供託することを認めないものとなっており、弁済者は先に請求をしてきた債権者に対して弁済をすれば足りるとされている。
 しかし、現行法では、債権譲渡通知自体の到達日時の公証は求められておらず、到達日時の管理は専ら弁済者にゆだねられている。弁済者が複数の債権譲渡通知が同時到達であると信じ、先に請求してきた債権者に弁済したとしても、その到達日時の管理に誤りがあった場合には、自らのした弁済の効果が覆ってしまうことになる。このようなリスクを含んだ到達日時の管理を弁済者に強いることは妥当でない。
 債権者らにとっても、債権者の一人に弁済されるのではなく、同時到達した債権者の全員に対して供託がされることで、供託物の配分を債権者間の協議にゆだねることになり、過度の負担を強いるものではない。

⑤ 係争中の債権
【意見の趣旨】
 債権の帰属が現に係争中である場合は、その債権の債務者は、債権者不確知を供託原因として供託できることを明文化すべきである。
 具体的には、次のとおり改正すべきである。
(改正案)
民法第○○条(債権の帰属に争いがある債権に関する債権者不確知)
 債権の帰属に争いがある場合は、その債権の弁済者は、民法第○○条(債権者不確知を供託原因とする供託)の規定により供託することができる。
【意見の理由】
 妻名義の銀行預金について、離婚後、夫婦がそれぞれ印鑑と証書の一方のみを所持して、互いに自らが預金者であることを主張する場合には供託を認めるとする供託実務の運用(昭和40年5月27日民事甲第1069号民事局長回答・先例集(4)82頁)もあり、債権の帰属に争いがある場合に、債権の帰属が確定するまで、弁済者が債務消滅の効果を得ることができないのは酷であるから、そのような場合には供託することができることを明定すべきである。

7 その他
(1)債権の額に争いのある債権
【意見の趣旨】
① 不法行為に基づく損害賠償債権の額等のように、債権の額に争いがあり、債権者がこれを受領しない場合等には、弁済者からの弁済がその債務の本旨に従った履行として認めるに相当と認められるときは、供託できることを明文化すべきである。
② 債権者は、争いのある債権であっても留保付の意思表示をすることにより、一部の弁済として受領することができることを明文化すべきである。
③ 争いのある債権について、供託した弁済額が不足することが後に明確となった場合には、弁済者から追加供託することを認めるべきである。
 具体的には、次のような規定を設けるべきである。
(改正案)
民法第〇条(争いのある債権の供託)
 弁済者は、供託原因のある債権の額に争いのある場合は、債務の本旨として相当と認められる額を供託することができる。
2 前項の規定による供託があった場合、債権者は、弁済の一部として受領する旨の意思表示をすることにより、弁済の一部として供託物を受け取ることができる。
3 第1項の規定による供託の後、供託物の額が債権額に不足することが明らかになった場合は、弁済者は、不足する額を供託することができる。
【意見の理由】
① 債権の額に争いのある場合には、その争いが長期に及ぶこともあることから、債務の本旨として相当と認められるのであれば供託でき、債権者は留保付で還付請求することによって一定額の満足を現実に得ることができるというのが供託実務である。よって、これを明文化すべきである。
② 供託物の有効活用という観点から、債権者は、留保付供託受諾の意思表示をすることによって、弁済の一部として供託物を受領することができるというのが確立した供託実務である(昭和34年10月2日民事甲第2184号民事局長回答・先例集(2)231頁、昭和35年3月30日民事甲第775号民事局長回答・先例集(2)277頁、昭和42年1月12日民事甲第175号民事局長認可6問・先例集(4)253頁)。このような確立した供託実務を明文化すべきである。
③ 供託実務では、不足する額を供託するということは、当初された供託が本旨弁済ではなかったことを認めることになるので、追加供託を認めないものとされているところ(昭和39年1月14日民事甲第13号民事局長回答・先例集(3)373頁)、供託の後、供託物の額が明確となった債権額に不足することが判明したときは、不足した額を追加して供託することが認められなければ、弁済者があえて当事者間で債権額が明確となる前に弁済をする意義が損なわれる。
 したがって、債務の本旨として相当と認められる額を供託した弁済者は保護されるべきである。また、紛争の早期段階から供託制度の積極的活用を認めることによって弁済者の利便が図られ、このような場合には債権者も留保付供託受諾の意思表示をすることによって、債権の一定の満足を得ることもできる点で当事者の公平を図ることもできる。本提案のこの部分は、かかる供託実務の変更を求めるものである。

(2)複数いる債権者のうちの一部に供託原因のある場合
【意見の趣旨】
 複数いる債権者のうちの一人に供託原因がある場合、その債権者を被供託者として供託できることを明文化すべきである。
 具体的には、次のような規定を設けるべきである。
(改正案)
民法第〇条(複数いる債権者のうちの一人に供託原因のある場合)
 複数いる債権者のうちの一人に供託原因がある場合は、弁済者は、その債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。
【意見の理由】
 複数いる債権者のうちの一人について受領拒絶や受領不能といった供託原因がある場合に、弁済者が弁済をする債権者を選択する権利を保護するために、弁済者に、供託原因のない債権者からの請求を拒み、供託原因のある債権者のために供託できることを明文化する必要がある。
 例えば、転貸されている目的物の賃貸借契約が解除された場合において、その転借人が、賃貸人から現民法第613条1項に基づき賃料の直接請求をされたときに、受領拒絶もしくは受領不能の転貸人を被供託者として供託するといった事案が考えられ、複数いる債権者と類似の事案としては、債権者代位権を行使された第三債務者において、その第三債務者が、受領拒絶もしくは受領不能の債務者を被供託者として供託するといったものも考えられる。

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プロフィール

Author:赤松 茂
あかまつ司法書士事務所
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【Mail】 quick-response@nifty.com

(平成26年5月に事務所移転しました。)

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