簡易裁判所における本人訴訟支援の実務 その2

2 裁判における「簡易」、「迅速」、「低コスト」のニーズの原則と例外
(1)簡易
 少額民事紛争は、その紛争の解決によって得られる利益が紛争の額に比例して少額となることが通常であることから、当事者は、紛争解決に向けた手続を選択する際、できる限り簡易な手続を希望することが多く、さらに、紛争解決に多くのエネルギーをかけないことを求めていることも多い。
 これを裁判に当てはめてみると、通常の訴訟よりも申立ての手続負担の軽い、支払督促、調停を利用することが望ましいということになろうし(少額訴訟は一回審理で判決言渡しできるほどの主張立証を求められるという意味では当事者本人にとっては申立ての手続負担が重いと言えるかもしれない。もっとも裁判所における受付相談が充実しているので、それほど大きな弊害ではないとは思われる。)、さらに、自らのエネルギーをさほどかけずに解決したいというニーズは、本質的には、できることなら代理人に一任したいという要望に繋がることになる。

(2)迅速
 同様の理由から、当事者は、紛争解決に向けた手続を選択する際、できる限り迅速な手続を希望することが多く、さらに選択した手続の中でも、迅速に解決することを求めていることが多い。
 これを裁判に当てはめてみると、原則として一期日審理である少額訴訟を利用することが望ましいということになろうし(支払督促は異議があると通常訴訟に移行するため、かえって時間がかかるという側面もあるし、調停は合意の強制力がないため、不調になれば、結局、別の裁判をしなおさなければならないという側面がある。むしろ、調停成立する案件であれば、示談交渉でまとめ、債務名義が必要であれば即決和解を利用するべきとも言える。)、さらに、仮に当事者が複数回の期日が設けられる裁判(通常の訴訟など)を選択したとしても、同裁判内において早い段階での和解等による解決を求める傾向が強いと言え、このような早期解決のニーズは、本質的には、できることなら裁判や交渉に長けた代理人に一任したいという要望に繋がることになる。

(3)低コスト
 少額民事紛争から得られる経済的利益が少額であることから、当事者は、紛争解決に向けた手続を選択する際、できる限り低コストな手続を希望することが多く、さらに紛争解決そのものについても低コストに抑えることを求めていることが多い。
 これを裁判に当てはめてみると、納める印紙額の負担の少ない支払督促や調停を利用することが望ましいということにはなろうが、実際のところ、少額民事紛争は裁判をしても納める印紙額が少額であるため、裁判に要する印紙代や郵券代などの費用はそれほど重要な要素とはならないと思われる。むしろ、法律実務家に要する費用が当事者の最大の関心事となろう。
 前述の「簡易」、「迅速」に解決したいという特徴からは代理人に依頼したいという潜在的な要望を導き出すことができるが、この「低コスト」に解決したいという特徴によって、代理人に依頼したいという潜在的な要望のほとんどは覆されてしまう。その結果、当事者はコストを抑えるため、自らが相当のエネルギーを消耗し、慣れていないし手間もかかる本人訴訟を選択することになるというケースもあるし、紛争の額に比し多大なコストがかかるくらいであれば、裁判を諦めるというケースも生じることになる。
 このように「低コスト」に解決したいという特徴から生じる当事者の泣き寝入りを極力抑えるために、少額民事紛争に特化した法律実務家でもある司法書士は、報酬を含め、できる限り紛争解決コストを抑える努力をするべきであるといえるだろう。

(4)例外
 もちろん少額民事紛争に直面した当事者の中には、「簡易」、「迅速」、「低コスト」といったことを無視してでも、しっかりとした司法判断を仰ぎたいと希望する方もいる。
 表面的な経済的利益と当事者の考える紛争解決利益とが異なる場合だ。
 このような場合には、当事者は、通常、採算を度外視して、法律実務家を代理人として裁判を行い、紛争解決にあたることが多いが、自ら訴えることに意義があるときには、あえて本人訴訟が選択されることもある。
 いずれにせよ、このような場合には、依頼を受けた法律実務家は、少額民事紛争だからといって、「簡易」、「迅速」、「低コスト」な解決に拘る必要はない。上級審での判断をも仰ぐことや強制執行までをも視野に入れた裁判を進めることになろう。
 しかしながら、本来であれば、表面的な経済的利益と当事者の考える経済的利益とが一致していたにもかかわらず、交渉の過程で相手方の対応に憤慨するなどして、いわゆる「引くに引けなくなった」という状態で、当事者が採算無視の裁判を進めようとするケースもあるので留意が必要である。
 時間の経過によって当事者が冷静になり、採算を無視した裁判を選択したことを後悔するときもあるからだ。
このようなおそれのあるときは、依頼を受けた法律実務家は当事者をいったん諌めるなどして、当事者が冷静になるのを待った方が良いだろう。

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プロフィール

Author:赤松 茂
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(平成26年5月に事務所移転しました。)

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