簡裁ウォッチング―司法書士の被告事件への対応について―

1 簡易裁判所における被告事件への法律専門職の関与率
 簡易裁判所に提訴された民事事件の司法書士や弁護士の関与の度合いを知る指標のひとつとして、裁判所が公表している司法統計がある。
 司法統計年表の「第13表第一審通常訴訟既済事件数」がそれだ。
 http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/B22DMIN10~15.pdf
 私は、この表のうち、とくに「一方被告側司法書士」と「一方被告側弁護士」の数に着目している。これは、簡易裁判所に提訴された通常訴訟既済事件のうち、原告側は本人訴訟であり、被告側のみ司法書士もしくは弁護士が選任された事件の数を集計したものである。
 「一方原告側司法書士」もしくは「一方原告側弁護士」と比べ、被告事件に法律専門職が関与する数が圧倒的に少ないことが読み取れる。
 中でも、司法書士の関与率の低さは際立っている。
 簡易裁判所の事件は、訴額が小さく、一般に争点も複雑でないものが多く、事件の筋としても争うことになるものが少ないため、当事者が被告となった際には、法律専門職に委任するケースが少ないのかもしれない。
 しかしながら、それだけでは弁護士と司法書士との関与率の差の説明がつかない。
 「訴えられたら司法書士に相談する」という市民の司法書士に対する認知が低いのか、「訴えられた事件は受任しない」との認識を多くの司法書士が持っているのか、いずれかだろう。
 仮に、後者の理由により被告事件の司法書士関与率が低いとしたら、簡裁代理権が付与された意味がないというほかない。そのようなことはないと思うが、ここでは、念のため、筆者が受任した被告事件の典型例を紹介し、それをもって司法書士が被告事件の関与の仕方についての共通認識を持つことを提案したい。

2 簡易裁判所における被告事件の一例
 被告事件は、まず、原告の請求を積極的に争わないものと争うものとに大別することができる。
 被告となった方が原告の請求を積極的に争わない事件については、結局、原告の請求が認められることになるので、法律専門職の関与する意義がないと考えてしまうかもしれない。
 しかし、そのような認識は誤りだと法律専門職は肝に銘じておくべきである。
 法律専門職が関与しないことから出頭しても意味がないと考えてしまった当事者が期日に欠席し、不用意に債務名義を取得され、予期せぬ強制執行を受けるおそれもあるし、出頭しても無理な和解内容に応じてしまうおそれもある。このような事態を避けるためにも、法律専門職が関与し、紛争の着地点を探った方が好ましいことはいうまでもない。
 実際に、破産申立ての準備中に債権者から貸金請求の提訴がなされるといった事件は、よく遭遇するケースであるといえ、そのようなケースでは破産申立てを急ぐとともに、貸金請求訴訟においても適切な対応をする必要がある。
 一方、原告の請求を争うことが妥当と思われる事件については、適切な反論をすることによって原告の請求が減免されることもあるので、一層、法律専門職の関与が重要になる。
 筆者が最近受任したケースでも、本来であれば敷金全額の返還を求めることができるにもかかわらず、敷金が返還されないばかりか、家主側からハウスクリーニング代等が支払督促を利用して請求されるといったもの、酔った勢いで相手に怪我をさせてしまったところ、因果関係がほとんどないと思われるような休業補償や過大な慰謝料をいきなり通常訴訟で請求されるといったもの、などがあり、法律専門職による適切な反論によって原告の請求が確実に減免される事件は相当あるという実感をもっている。このようなケースを見定めるためにも、被告事件の相談は、被告となった方からの事情聴取を丁寧に行うことが重要である。
 最後になるが、司法書士の被告事件への関与の向上を図るためには、「訴えられたら司法書士に相談する」との市民の認知を高めることが最大の課題である。
 司法書士側の受任意識を高めるとともに、司法書士の行なうことのできる業務の認知を高めるための方策を実践し、司法書士界としても一層の司法アクセスの充実を目指していきたい。
 それが簡易裁判所の充実にも繋がるのだろうと私は思っている。

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プロフィール

Author:赤松 茂
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(平成26年5月に事務所移転しました。)

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