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労働審判の実務

 先日、近々行う予定の労働研修の講義レジュメを作成するために、データを整理していたところ、労働審判の事例報告をまとめたものがあったので、内容のうち、事実関係を大幅に簡略化したものをアップする。
 労働審判の利用促進につながれば幸いである。

【事例】
 トラック運転手Aは、長時間労働など過酷な労働条件で労務を提供し続けたことにより、平成19年1月ごろから不眠症を患い、心療内科に通院するようになったが、その医師の勧めもあり、同年6月ごろから、休業していた。なお、休業中は会社より休業手当の支給がされていた。
 同年12月下旬、療養の成果により病状が快復したため、医師の診断書を添えて職場に復帰しようとしたところ、使用者より、「職を変えた方がよいのではないか」など執拗に言われた。しかし、Aは、生活がかかっているので、「今の職場でがんばりたい。そのために療養をしてきたのだから」と懸命にくいさがり、その場では平成20年1月5日より職場に復帰することとなった。
 ところが、Aがその日に出社すると、使用者から、「このまま病気が快復するとも思えない。明日から来なくてよい」と即日解雇を言い渡されたという事案である。
 まず、Aは、職場の労働組合に相談し、労働組合から使用者に対し、Aの解雇に対する質問書を送付してもらったが、使用者からは、「就業規則の解雇事由である『精神または身体の故障のため、業務に耐えられないと認められるとき』に該当するため、解雇は有効である。また、会社の財務状況は債務超過であり、このままAの雇用を継続することはとてもできないので理解をしてほしい」と形式的な回答がなされただけであり、労働組合はそれ以上Aのために動いてはくれなかった。
 平成20年1月下旬には、使用者より解雇予告手当として30日分の平均賃金がAの口座に振り込まれた。
 その後、Aは、同年2月に、労働局の紛争調整委員会にあっせんの申立てをしたが、使用者不出頭のために打ち切られた。
 Aは、このままでは納得ができず、司法書士のもとに相談に訪れた。

【経過】
(1)復職を求めるか否か。
 司法書士が事情を聴きとったところ、Aは、会社業務におけるストレスが主要因で睡眠障害となり、その療養のために休職をしていたのであるから、その直後に言い渡された本件解雇は、労働基準法19条の解雇制限期間に該当し無効であると考えられた。
 また、使用者は、「Aが持参した医師の診断書に『薬物による療養を継続する必要はある』と記載されていたので、副作用などにより居眠り運転をされてしまう可能性がある以上、ドライバーとしての業務につかせることはできず、それ以外の業務につかせるにはポストに空きがなく、経営も苦しいので、困難である」ということを解雇理由の一つに挙げていた。ところが、医師の診断の趣旨は「今後、就労することで更なる病症の快復が期待できる」というものであり、当然、Aの業務がドライバーであることを踏まえての診断であった。したがって、医師の診断書を曲解した解雇理由は、労働基準法18条の2(当時)に基づき、無効であるとも考えられた。
 そのため、司法書士は、Aに対し、まず復職を求めるか否かの確認をした。Aは、職探しが難航することは明らかであるので、可能であれば復職したいとの意向を示し、それが困難であるときは一定の金銭解決も視野に入れるとのことであった。それにより、本件解雇事件は、復職を求める地位確認請求を主たる訴訟物とすることに決定した。なお、この時点で、司法書士は、Aに対し、代理業務ではなく、裁判書類作成関係業務として相談に応じることとした。

(2)労働審判制度を利用するか否か。
 地位確認請求を行うという方針は決定したものの、それを実現するための手続は、①仮処分、②通常訴訟、③労働審判制度などがある。それぞれにメリット・デメリットがあるので、司法書士はAに各手続の説明をしたところ、Aは労働審判制度で進めたいとの意向を示した。なお、労働審判制度は、現在、地方裁判所本庁で行われており、各支部では行っていない裁判所が多いようである。そのため、Aは最寄りの地方裁判所○○支部ではなく、本庁にまで出頭する必要があったので、その旨までを説明したところ、Aが納得したので、司法書士は、労働審判手続申立書の書類作成業務として事件を受任した。なお、Aは、生活費にも窮する状態であったので、労働審判手続の申立てに先立ち、失業保険の仮給付の申請をした。

(3)労働審判の期日
 労働審判手続申立書は、労働審判員の分も必要となるため、相手方の人数分プラス3部を提出することになる。
平成20年2月19日に労働審判手続の申立てをしたところ、同年4月7日に期日が指定された。労働審判法規則13条では40日以内に期日を指定しなければならないとされているものの、本件は年度の変わり目であったので40日を過ぎた指定になったと思われる。
第1回期日前に、相手方代理人弁護士より、求釈明がなされた。Aが療養中に服用していた薬物の名称や量などを明らかにするようにとのことであった。労働審判制度では、「おって主張する」などという形式的な答弁書の記載により期日が空転することは、ほとんどない。最初の期日から、内容のある審理が始まるのである。
 Aも、第1回期日前に適宜、求釈明に対する回答をした。
 また、労働審判法16条但書に基づき、司法書士は書類作成者として傍聴許可の申立てを同時に行っていた。第1回期日の直前まで傍聴許可の判断は留保され、結局、労働審判委員会は司法書士の傍聴を認めなかった。(ただし、後に別の事例で認められたケースあり。)
 第1回期日ではその大半が、労働審判委員会がAから事情を聴くことに費やされ、相手方は使用者本人と代理人弁護士が出頭していたものの、本件の進行に対する意向を若干尋ねられるに留まったようである。第1回期日は2時間弱かかった。
 第2回期日は、同年4月24日に指定された。第1回期日から17日後である。このときに、相手方代理人より、80万円という解決金の提示がなされる。Aは返事を留保し、次回期日の指定を要求する。第3回期日は、同年5月8日に指定された。第2回期日から14日後、申立日から79日後である。この期日に調停が成立しなければ、労働審判が行われることになる。

(4)調停成立
 第3回期日の前に、Aのもとに裁判所書記官から打診があり、労働審判委員会としても、90万円までであれば相手方に強くあっせんしてみるとのことであった。この場合、労働審判は同様に90万円を言い渡される可能性が強い。あくまで復職を求めるのであれば、当然拒絶すべきであるが、Aの頭の中には、最終的には金銭解決という選択肢も残されていた。そして、90万円の支払いを命ずる労働審判に異議を申し立て、訴訟に移行させても、今後の時間と費用のリスクを考慮すると、このまま90万円で応じた方が得策であるとAは判断した。なお、90万という額はAの賃金のおよそ3.5カ月分にあたる。その結果、第3回期日に調停が成立し、解決金は同年5月16日にAの口座に振り込まれた。Aは、その後、その金員を基に求職活動を開始した。

【終りに】
 紛争調整委員会によるあっせんでは使用者は不出頭であったが、労働審判手続では代理人弁護士とともに使用者が出頭した。また、申立てから3カ月以内に解決金の支払いがなされた。これだけをみても、労働審判制度がどれだけ使えるかがお分かりいただけると思う。

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赤松 茂

Author:赤松 茂
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(平成26年5月に事務所移転しました。)

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