東京大学大学院法学政治学科・法学部連続講義「債権法―『債権法改正の基本方針』を中心に」(第2回)受講報告

 平成22年2月16日18時30分から20時まで、東京大学大学院法学政治学研究科・法学部連続講義「債権法改正―『債権法改正の基本方針』を中心に」第2回が開催された。第2回のテーマは、「債権その1-債務不履行のシステム」であり、講師は東京大学教授の森田修氏が務められた。

 講義の主な内容は次のとおりである。主語は、講師の森田修氏である。なお、講義内容に聴き誤りや解釈の誤りがあるおそれもあるので、ご了承をいただきたい。(文責 赤松 茂)

【はじめに】
 ①市場からの入力を重視する、②「合意は守られるべし」から「契約の尊重」へ、という契約責任法の大きな2つの文脈の中で、債権法改正の基本方針は作られた。②については、一件同じようにも思えるが、「合意」よりも、「契約」の方が広いと考えられる。

【契約債権の基本構造】
 債権法改正の基本方針では、履行請求権の存在意義が定められ、同時に、履行請求権の限界も定められている。履行請求権の限界は契約の趣旨によって定まるものと考えられる。履行請求権の排除原因のひとつが不能にすぎない。
 原始的に不能なものを契約の目的とした場合、契約は成立しないという現民法の考えから、原則として有効であると変更された。これは、契約債権の基本構造へのアプローチを履行請求権から出発するという考えから導かれたものである。

【損害賠償・要件】
 債権法改正の基本方針では、債務不履行の一元論を採用し、帰責事由の変更が提案されている。その構造は、「契約債務の内容+債務不履行-免責事由」と考えることができる。
 免責事由としては、「契約において債務者が引き受けていなかった事由」という契約におけるリスク分配のルールが採用されている。
 なお、履行請求の認められる場面が広くなっている点に留意されたい(【3.1.1.65】〈ウ〉)。
 ところで、不能と遅滞は、無履行という点では同じであるが、不完全履行については、一応履行がされている点で異なる。不完全履行は、その事案に応じて、不能や遅滞の規定にあてはめて解釈されてきた。債権法改正の基本方針では、不完全履行に対して追完という新たな制度が設けられた。

【損害賠償・効果】
 債権法改正の基本方針では、通常損害・特別損害という考えから、予見可能性という考えに変更することが提案されているが、実務はさほど変わらないものと考えている。予見可能性とは、当事者が契約締結時にいかなるリスク分担をしていたかという考えに基づくことになる(【3.1.1.67】〈1〉)。
 なお、一定の場合には、債務不履行時においても、リスク分担をすることが提案されている(【3.1.1.67】〈2〉)。
 また、損害軽減義務を定めることも提案されている(【3.1.1.73】)。
 
【追完】
 追完請求権は、不完全履行がなされた場面での履行請求権を具体化したものである。この追完請求権には、修補請求、追履行請求、代物請求を含むものである。売買のところに詳細な規定も定められている。
 なお、債権法改正の基本方針では、債務者の追完利益を保障するために、債務者に追完権を認めることが提案されている。この制度は極めて限定的であり、不完全履行の類型にのみ適用されるものである。
 ところで、追完権は、【3.1.1.57】〈3〉の解釈によって、適用範囲が異なることになるので留意が必要である。

【解除・危険負担】
 債権法改正の基本方針では、解除の要件について、無催告解除と催告解除の2本立てが維持されている。不能は、契約の重大な不履行として判断されることになる。立証負担はあるが、契約の重大な不履行という事実を立証すれば無催告解除をすることも認められる。
 ところで、解除の帰責事由が排除されているが、それは帰責事由が問題となった判例がほとんど見当たらなかったこと等が理由である。
 そのように解すると、天災等により不履行となれば、それが契約の重大な不履行に該当すれば、解除をすることができるが、損害賠償請求はできないという事態も想定し得ることになる。(ただし、天災による不履行リスクを契約時に債務者が引き受けていれば損害賠償請求ができることは当然である。)
 なお、催告解除に、「催告に応じないことが契約の重大な不履行にあたるとき」という要件を加えたが、判例も規範的要件をもとに動いているので、それを忠実に提案されたものである(【3.1.1.77】〈2〉)。一方、事業者間契約については立証責任を転換することが提案されている(【3.1.1.77】〈3〉)。
 解除から帰責事由を排除することにより、危険負担との整合性についても検討する必要が生じる。ドイツ等は、解除に帰責事由が求められないにもかかわらず、危険負担の制度を残しているが、債権法改正の基本方針では、危険負担制度を廃止し、解除に一元化することが提案されている。これは、今後、メリット(反対債務を残しておきたい場合、解除の意思表示をしなければよい)とデメリット(反対債務を消滅させたい場合、解除の意思表示という負担が生じる)とを比較考慮していく必要がある。
 なお、現民法536条2項に対応した規定は、債権法改正の基本方針でも存続させることが提案されている。

【事情変更】
 債権法改正の基本方針では、事情変更は原則として認めないとすることが提案されている。ただし、判例、学説上、異論のないものとして認められている部分につき例外規定を置くこととされている。
 条文化したとしても、事情変更の原則が認められることが極めて困難であることに変わりはない。
 なお、債権法改正の基本方針では、事情変更の効果として、再交渉義務を原則的義務として定め、交渉中は履行を停止することを認めており、その交渉が決裂したとき、解除を原則とする案と契約改訂を原則とする案とが併記されている。しかし、いずれの案も、現実的には解除が原則形態になるものと予想している。

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

Author:赤松 茂
あかまつ司法書士事務所
静岡県沼津市下河原町48番地

【TEL】055-963-8002

【Mail】 quick-response@nifty.com

(平成26年5月に事務所移転しました。)

カテゴリ