東京大学大学院法学政治学研究科・法学部主催 連続講義第1回

平成22年2月10日18時30分から20時まで、東京大学において、「債権法改正―『債権法改正の基本方針』を中心に」をテーマとした連続講義が開催されたので受講した。
 合計6回の講義であるが、第1回の講義は、「序論―これまでの経緯、検討の対象、民法総則の変容」をテーマに、大村敦志氏が講師を務めた。

以下、講義の概要を述べる。主語は、講師の大村敦志氏である。なお、講義中の聴き誤りや解釈の誤りがある可能性があることを念のため申し添えておく。(文責 赤松 茂)

【債権法改正の経緯】
 内田貴氏らが民法(債権法)改正検討委員会を立ち上げたほか、加藤雅信氏らも民法改正研究会を立ち上げ、それ以外にも多くの学者が民法改正に関する提言をしているところである。
 法務省も、諮問88号を受け、法制審に民法(債権関係)部会を設置し、具体的な検討を開始したところである。
 
【本講義の構成】
 本講義では、民法(債権法)改正検討委員会がまとめた「債権法改正の基本方針」を中心に解説を行うこととする。
 その理由は、学者の成果物としては、もっとも詳細なものであると思われることと、本講義を担当する講師が民法(債権法)改正検討委員会に所属していることが挙げられる。
 連続講義の第2回から第5回までに「債権法改正の基本方針」本体部分の講義を行い、第6回はやや外側の視点からの講義をする予定であり、今回の第1回は序論という位置づけでの講義は行われる。
 受講対象者を意識して、実務的な観点から講義をすることを心がけるとのことであった。

【改正の背景】
 差し迫った不都合を修正するための改正を小さな改正とするならば(例:割賦販売法改正など、いわゆる火消し立法)、民法は、数十年に一度のスパンで行うべきである全体的な見直しを図るための大きな改正をする必要が高いと考えられる。
 大きな改正をするには、形式的には50年、100年という区切りのよい時間の経過が契機となることもある。
 現在の民法改正の論議は、民法施行100周年が契機となっているとみることもできる。
 1990年代以降、諸外国において民法改正の動向があり、グローバリゼーションという風潮があることは間違いない。
 日本では、経済体制の再編などを受けて、倒産法、会社法、信託法、保険法等の改正が行われており、民法も例外とはならない。これら改正には正当性の調達を図ることが重要であると考えられている。そのため、民法改正に関しては、市民のためにわかりやすい民法という方針が重要になる。

【検討の対象】
 法制審の部会は、民法(債権関係)とされている。財産法全般を改正の対象としないことについての批判もあるところである。
 しかしながら、財産法は膨大であるので、いくつかのパートにわけて見直すという方法もあり、諸外国においてもそのような見直しの方法をとっている例もある。
 また、部会が「債権法」ではなく、「債権関係」となっているのは、改正の検討対象が、債権編のうち法定債権を含まず、逆に総則の一部(意思表示や消滅時効)を含むものであり、実質的な意味での契約法が検討の対象になっているといえるからである。
 とくに、契約法については、現代化の必要性が高いと考えられる。その理由は、新しい形態の取引等に現民法は対応できていないということと、契約理論に限界がきている(特定物の概念、約款に関する問題など)ということ等があげられる。
 なお、契約主義という概念は、規範的な契約解釈等の一定な社会的サポートに包まれているものの、当事者の創意工夫にルール創りを委ねていくことが求められているといえ、さらに、社会全体が契約によって形成されているということを追求していくことが重要であると考えるので、契約法から改正を検討するという方針に賛成することができる。

【総則の変容】
 法律行為については、現民法90条から98条までにつき、現代化が提案されている。具体的には、公序良俗違反の現代化(暴利行為の定式化)、不実表示の導入、意思能力に関する規定の新設(行為類型に応じた意思)が挙げられる。
 このような提案を鑑みても、債権法改正の基本方針は、弱肉強食を招く合意主義を採用しているわけではないということができる。
 消滅時効については、債権時効とその他の時効とに分けて規定することが提案されている。提案は、消滅時効期間を統一するとともに、起算点等についても検討を加えた内容となっている。
 消費者契約法については、同法4条、8条から10条を民法に取り込むことが提案されている。消費者契約法を取込むことによって、同法の存在意義が失われるという考えもある。たとえば、消費者契約法には差止請求権の規定があり、同法4条を民法に規定すると差止請求権が機能しなくなるというおそれである。しかしながら、差止請求権の規定を民法の新条文に移したり、差止請求権の規定自体を変更したりという方法もあり得るため、それらを理由に消費者契約法の規定を民法に規定することを否定することは妥当ではない。
また、その他の批判を考えても、消費者契約法の規定を民法に「一般法化」「統合」することを否定することは妥当ではない。
 民法に「消費者」という人概念を持ち込むことについても、現民法では既に「外国人」「未成年」「行為能力者」等の人概念が導入されており、抽象的な人概念のみで民法が構成されているわけではないといえ、消費者という人概念を導入しても、抽象的な人概念の重要性は些かも薄れるものではない。
 「消費者」「事業者」という人概念を持ち込むことによって、より市民社会の実情に即した規定をすることができると考えられる。
 今日の契約の在り方を考えると、商取引や消費者取引の基本ルールを取り込まなければ、市民のための民法を実現することは難しい。
 なお、フランス法は民法典に消費者法を取込んでいないが、フランス法では消費者法の一般法化が既に相当進んでいる等の事情があり、日本とは事情が異なると評価すべきである。
 ところで、規定を具体的にするために、総則編はできる限り小さなものとした方が好ましいという考えがあり、そのために債権法改正の基本方針では、消滅時効の規定のうち債権時効を債権編に移すことが提案されている。

【今後の見通し】
 今回の改正が、実質的な契約法の見直しになることは間違いないと思われる。
 債権関係の改正以外でも、広い意味での「人」を対象とした改正(成人年齢引下げ、夫婦別姓等)が引き続き検討されるのではないだろうか。
 他にも、物権や不法行為等の見直しも順次なされるべきである。
 民法改正を通じ、社会の基本部分の見直しをしていくことになる。



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