「債権法改正―いま何が問題となっているのか?」受講報告

 平成21年10月29日(木)13時30分から15時まで、東京大学法学部25番教室において、「債権法改正―いま何が問題となっているのか?」というテーマで、東大BLC公開講座が開催されたので、参加した。
 講師は、法務省経済関係民刑基本法整備推進本部参与の内田貴氏である。
 講義は、次の内容で進められた。
1、はじめに
2、債権法改正の現段階
3、改正のあり方をめぐる対立
4、債務不履行による損害賠償をめぐる対立
5、債務不履行による解除をめぐる対立
6、瑕疵担保をめぐる対立
7、消滅時効をめぐる対立
8、消費者をめぐる対立
9、おわりに
 以下、それぞれのテーマに関するコメントを延べる。ただし、内田参与の発言を抜粋することを中心としたため、コメントの主語は内田参与である。また、コメントの内容において聞き間違い、解釈の誤り等もありえることを、あらかじめご了承いただきたい。(文責 司法書士 赤松 茂)

【債権法改正の現段階】
 当初は学者の私的研究会として、民法(債権法)改正検討委員会が設立され、債権法改正の基本方針が公表されたところである。現在、民法(債権法)改正検討委員会は解散した扱いとなっている。
 また、他の学者グループや弁護士会から対案や意見も多く出されている現状にある。(大阪弁護士会の意見書は200頁を超える大作とのことである。)
 なお、既報の法案提出予定年は、法務省の正式な意向ではないと理解している。

【改正のあり方をめぐる対立】
 改正にあたり、現行法を尊重して最小限の手直しをするか、すべての規定を対象に全面的な改正をするかという、大別すると2つに分けることができる。
 現行法は、原則のみが規定され、条文数も、条文の文字数も少ない法典となっている。これは比較法としても、明らかである。
 そのため、今までは、法律のプロによる解釈によって補われていたと考えることができる。これは、一般市民にとって、法律の内容が見えていないということを意味するものである。また、これは法律のプロにもいえることかもしれない。たとえば、損害賠償の範囲に関する予見可能性に関する解釈(【3.1.1.67】)ついても、法律のプロ同士の中で、解釈が異なっているという事実がある。(検討委員会の「提案」にいう予見可能性は、判例法理に足しも引きもしないものであり、何ら実務に影響を及ぼすものではない。また、判例は、相当因果関係そのものを民法416条に定めているので、「提案」は何ら抵触するものではない。)
 これからの世の中は、実務においてなされてきた解釈を条文化し、透明性の高い民法を実現することが求められていると考えている。そして、そのような民法改正を目指すとすると、民法典全体の大きな改正とならざるを得ないものになるといえよう。

【債務不履行による損害賠償をめぐる対立】
 条文にはない無過失免責は問題であると考える。
無過失免責を認めた判例は、近時、ほとんどない。その意味で、無過失責任は裁判規範として実際に機能していないと考えられる。
実際に機能している裁判規範を明文化するために、「提案」では、過失責任基準をとらずに、「債務者が引き受けていなかった事由」という概念を規定した。
 これに対し、免責事由の概念が不明確であるという批判がある。また、このような基準では、免責事由を明確にするために、詳細な契約を誘発することになってしまうという批判もある。
しかしながら、契約の趣旨を合理的に意思解釈し、免責事由の有無を判断することは現在も行われており、「提案」においても、現行の実務と何ら変わるものではない。そのため、契約書が膨大になるということは想定していない。

【債務不履行による解除をめぐる対立】
 解除を、債務者に対するサンクションから、債権者を契約から解放する手段と位置付けることとした。
 そうすると、債務者の帰責事由を考慮することはなく、債権者にとって、「重大な不履行」であるか否かについて検討すればよいことになる。
 また、「重大な不履行」=「要素たる債務」と限定したのは、原則として付随義務違反による解除を認めない趣旨を明らかにしたものである。
 これに対し、「重大な不履行」という規範的要件を解除に要求すると、実務が停滞するとの批判がある。

【瑕疵担保をめぐる対立】
 法定責任説と契約責任説の不毛な論争があり、現在は、どちらの説をとっても、結論はほとんど変わらない。なお、最高裁は、法定責任説を採用はしていないと考えているが、かといって、契約責任説を採用しているとも考えていない。(実務家は、判例が法定責任説をとっていると考えている方が多いようだが。)このように判例理論ですら不明確である。
 そこで、「提案」では、契約責任であることを前提に買主が行使できる権利のリストを明示した。また、債権時効の起算点を統一した。さらに、買主に対し、失権効を伴う通知義務を課し、売主の保護も図った。
 これに対し、買主の通知義務は買主にとって負担が重すぎるのではないかという批判もある。
 しかしながら、通知義務を負うのは、事業者に限定しているので、負担が重いとは考えていない。

【消滅時効をめぐる対立】
 短期消滅時効の合理性に問題があると考えており、また、生命侵害による不法行為の損害賠償債権の時効とも、不均衡であると考えている。
 さらに、時効障害事由にも改善の余地があると考えている。
 「提案」では、これら問題点を中心に、時効制度の見直しを図った。

【消費者をめぐる対立】
 現在は、消費者のルールが消費者契約法に規定されており、消費者にとって、民法と消費者契約法の2つを参照しなければならない。
 そこで、「提案」では、不実表示を一般法化し、消費者契約法のその他の意思表示の部分も、民法に統合することとした。
 これに対し、そもそも、消費者契約法を民法に取り込むべきかという批判などがある。
 しかしながら、これからの民法典は、消費者も含めた民事紛争を民法に規定すべきであり、19世紀型のブルジョワジーを想定して規定された民法典とは別物と考えるべきである。
 また、消費者法典を別に定めることについては反対しないが、差し当たり民法典に消費者契約法のルールを定め、民法典の一覧性を高めることが重要であると考えている。ただし、現実には、消費者契約法を民法典に取り込もうという主張に対して、多くの反対意見があることは承知している。

  *

 講義は、現行法の問題、問題を解消するための「提案」、その「提案」に寄せられる批判、さらに批判に対する反論という形式で、コンパクトに解説がなされた。「提案」を一歩踏み込んだ内容であり、充実した講座であった。

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