国交省社会資本整備審議会住宅宅地分科会民間賃貸住宅部会「中間とりまとめ」に対する静岡県司法書士会の意見

 平成21年10月14日に開催された静岡県司法書士会の常任理事会で、国交省社会資本整備審議会住宅宅地分科会民間賃貸住宅部会「中間とりまとめ」に対する意見を提出することが承認されたので、意見書の全文を紹介する。


静司第222号
平成21年10月14日

国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会民間賃貸住宅部会 御中

                              静岡県司法書士会
                            会 長 早 川 清 人

社会資本整備審議会住宅宅地分科会民間賃貸住宅部会「中間とりまとめ」に対する意見

去る8月12日に国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会及び民間賃貸住宅部会から「中間とりまとめ」が提示された。今後、年内の答申に向けて、審議が進められることになるが、当会は、下記の趣旨が答申に反映されるよう、以下の2つに論点を絞り、意見を表明する。

意見の趣旨
1.賃貸人及び民間事業者からなる団体等が賃借人(入居希望者)の家賃滞納に関する信用情報を入手、提供できるシステムは構築すべきではない。

2.賃借人が契約更新を伴う長期間の居住を予定しているケースについては、定期借家制度の普及、利用を促進するべきではない。

意見の理由
1.近時、世界的な経済不況により滞納家賃を抱えた賃借人に対する家賃債務保証業者等による反社会的な取立行為や「追い出し」被害が後を絶たない。このような家賃債務保証業者は、連帯保証人を立てるあてのない賃借人の増加とそうした者の家賃の滞納を避けたい賃貸人側の需要により近年急激に増加している。帝国データバンクが平成21年4月に行った把握可能な29社の家賃債務保証業者に関する調査結果によれば、平成20年度の売上は、前年比43%増の約217億6000万円に上っている。また、最近では、賃貸人と賃貸物件の管理委託契約を締結した不動産管理業者や貸金業者が賃借人の家賃債務を保証するケースも確認されており、これら業者の増加とともに賃借人の滞納や家屋明渡しを巡る紛争も増加しているのが実情である。
このような紛争は、失業や病気、低賃金、家族などの問題を背景に賃料の滞納という事実が出発点になるのだが、「中間とりまとめ」で提案されているような滞納に関する信用情報を賃貸人や保証業者等が入手し、提供できるシステムを構築することには賛成できない。
賃借人の信用情報の共有化は、収入の安定しない窮迫状況にある低所得者層などの民間賃貸住宅の確保を著しく困難にする危険性を孕むものであり、憲法第25条の精神に反するものである。住居は、国民が健康で文化的な最低限度の生活を営むために必要不可欠なものである。したがって、賃貸物件の外観的な情報の入手、提供と賃借人の滞納等の信用情報のそれとは明確に区別する必要があり、賃貸人や保証業者等の保証機関や不動産管理業者、一部の賃借人の利益を図る結果として賃料を滞納した賃借人のその後の居住する権利が侵害されることはあってはならない。
家屋の明渡しを巡るトラブルを未然に防止するための施策を検討するにあたっては、契約当事者間の問題として賃貸市場に委ねるのではなく、社会福祉及び社会保証的な観点から国民の住生活の安定・向上に資するための法整備や検討を加えるべきである。

2.定期借家契約は、契約で定めた期間の経過により、更新されることなく借家契約が終了する契約であるため、通常の建物賃貸借契約のように更新拒絶や解約申し入れに対して正当事由を必要としない。そのため、一定期間利用しない不動産や高齢者の保有する空不動産などの有効利用や母子家庭、高齢者などの入居段階で選別が厳しくなると考えられる賃借人の居住に資する面がある一方で、長期間にわたり居住を希望する賃借人にとっては、定期借家契約を締結するメリットは少なく、賃借人にとっては、不利な契約であることが多い。
国土交通省の「定期借家制度実態調査(平成19年3月)」によれば、建物の借家契約のうち定期借家契約の占める割合は、5%程度に留まっている。また、定期借家契約の実績のない事業者及び賃貸人に対する今後の活用意向についての回答のうち、「今後積極的に活用したい」と回答した事業主は2.5%、賃貸人は4.0%であるのに対し、「活用する意向がない」と回答した事業主は25.4%、賃貸人は33.2%である。そして、「場合によっては活用したい」と回答した事業主は72.1%、賃貸人は68.1%と最も多い。
  また、定期借家制度を活用したくない理由として、「賃借人にとって魅力が乏しく空家になる可能性がある」(事業主45.8%・賃貸人11.3%)や「普通借家契約に特段の不都合がない」(事業主44.4%・賃貸人32.3%)、「制度が煩雑で正確に理解するのが難しい」(事業主21.6%・賃貸人41.9%)などの回答が目立った。
上記のとおり、定期借家制度は、日本の賃貸市場において定着していないことは明らかである。また、事業主及び賃貸人は、定期借家契約に関して、「場合によっては活用したい」との回答が多くを占めるように、限定的に利用するものという認識を有していると考えられる。そのような実情のなかで、国があえて積極的に定期借家制度の普及・促進を進める必要性は見出し難い。
普通借家制度における「正当事由」が賃貸人による不当な解約申し入れから賃借人を保護するための制度であるのに対し、定期借家制度は、「正当事由」が要求されることへの弊害から賃貸人を解放する制度である。賃貸人及び賃借人は、平成12年3月に定期借家制度が導入されて以降、普通借家契約を締結するのか、定期借家契約を締結するのかの自由を有し、その状況のもとで現在の賃貸市場を形成してきたのである。
したがって、一般的に賃借人にとって不利に働くことが多い定期借家制度を普及・促進させることは、賃貸人及び賃借人の双方に混乱を招き、また、賃借人の住居の安定性を甚だ害することにも繋がりかねない。
経済状況の悪化に伴い職と同時に住居を失う「ハウジングプア」という者達が増大する現状では、先ず居住の安定を確保する住宅セーフティーネット等の整備を充実させる方向で検討を加えるべきである。

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