平成21年度裁判実務セミナー

平成21年9月12日(土)、13日は、司法書士中央研修所主催で、札幌市において、裁判実務セミナーが開催された。テーマは、「不動産登記請求訴訟」である。全国から司法書士104名が参加した。
司法書士が登記業務の専門家であることはいうまでもない。と、同時に裁判書類作成業務や簡裁訴訟代理業務によって、民事紛争解決の専門家でもある。そうすると、裁判業務においても、登記が関連する不動産登記請求訴訟は、司法書士の専門中の専門という紛争類型であるといえ、すべての司法書士が訴状起案から満足にいたるまでの全ての段階において、比類なき能力を発揮しなければならないといえよう。そのために今回の裁判実務セミナーは、「不動産登記請求訴訟」をテーマにしたとのことだ。
裁判実務セミナーでは、2日間で計6講が延べ10時間に亘り実施された。以下、研修の模様を報告する。

【1日目】
 第1講は、基調講演として「裁判所における不動産登記請求訴訟の現状」と題して、札幌簡易裁判所判事の西村博一氏による100分の講義が行われた。
 西村氏によると、全国規模のデータはないものの自庁の経験上、不動産登記請求訴訟受理件数の率は少ないと思われるものの、原告の勝訴率が低い傾向にあるとのことであった。
 講義は、訴状の受理から期日を経て判決にいたるまでの問題点につき、網羅して説明がなされた。裁判官の視点から、事件の進行に沿った解説が加えられ、争点整理の考え方など、西村氏の解説は他の訴訟類型においても役立つものが多かった。
 もちろん、所有権移転登記手続請求訴訟、所有権の抹消登記手続請求訴訟、地役権・抵当権等の制限物権設定登記の抹消登記手続請求訴訟などに特有の問題については請求の趣旨から請求原因、被告の抗弁事由まで詳細な解説がなされた。
 また、不動産登記請求訴訟は、複雑な紛争となるケースもあるので、地裁への移送がなされることもあるとのことであったが、西村氏は司法書士が代理人となっている場合には当事者のためにも簡易裁判所で極力判断をしていきたいと述べられ、地裁への移送を受けた訴訟代理人司法書士は即時抗告を申立てることも検討すべきであるとのことであった。
 最後に、西村氏は、不動産登記訴訟において、専門的知識を有する司法書士の方々には大きな期待を抱いているので、過払い訴訟等に偏ることなく、幅広い分野の訴訟業務に取り組んでいただきたいと述べられた。

 第2講は、「民事訴訟と不動産登記との関係について」と題して、弁護士田中康久氏による100分の講義が行われた。
 田中氏は、法務省民事局課長もご経験されており、公共嘱託登記に関する司法書士法及び土地家屋調査士法の改正や登記簿の横書化等コンピュータ不動産登記簿の基本的な仕組みの構築に携わったとのことである。
 講義は、判決による登記の仕組みを中心に展開された。判決による登記の総論的な解説がなされた後、①時効取得の場合、②農地に係る場合、③所有権が転々と移転した後に所有権の回復を求める場合、④処分禁止仮処分に係る場合、等、具体的な事例の検討をしながら、求めるべき判決、認容判決確定後の登記手続について解説がなされた。とくに、時効取得の場合には、時効取得者は無償で財産を得たものとして雑所得(一時所得)の税金がかかるので、当該納税予定額をも考慮したうえで、売買契約の形で和解を勧めることもある等、実務的な話が多く、参考となった。

 第3講は、「不動産登記訴訟とその判決に基づく登記申請の実務」と題して、100分のパネルディスカッションが行われた。コーディネーターを司法書士加藤俊明氏(神奈川県会)、パネラーを弁護士田中康久氏、司法書士大原英記氏(愛知県会)、司法書士高木勝正氏(札幌会)、司法書士太田宜氏(青森県会)が務められた。
 パネルディスカッションは、まず、判決に基づく登記申請に関する具体的事例の検討として、法定相続登記後に遺産分割調停が成立し相続の更生登記を行った事件や引換給付の登記条項に確定期限も付されていた事件について議論が展開された。後半は、不動産登記訴訟に関する具体的事例の検討として、所有権抹消登記請求訴訟の被告事件等を題材に議論が展開された。

【2日目】
 第4講は、「不動産登記訴訟と判決による登記―不動産売買の所有権移転、抹消、更生登記を中心にして―」と題して、司法書士大原英記氏による100分の講義が行われた。
 大原氏からは、不動産登記訴訟と判決による登記の概要について解説がなされた後、所有権保存等を題材に、実体の部分である不動産登記訴訟と手続の部分である判決による登記とに分けて、様々な事例を挙げ実務上の諸注意が述べられた。
 後半は、実際の判決文を基に具体的検討が行われた。同じ題材を通じ、訴訟と登記手続考えることにより、実体と手続のつながりが、より理解できたことと思う。

 第5講は、「判決による登記の実務」と題して、司法書士加藤俊明氏による100分の講義が行われた。
 加藤氏によると、判決による登記申請が問題となるのは、不動産登記法63条1項と同法74条1項2号の登記申請においてであるという。
不動産登記法63条1項は、共同して登記申請しなければならない場合に相手方の任意の協力が得られないときに、登記権利者は、判決を取得して、単独で登記申請ができるとしたものである。
不動産登記法74条1項2号は、判決によって所有権の帰属が認められた者が当該物件についての保存登記の申請適格を有するとしたものである。
講義では、各根拠条文に基づく登記申請の実務について詳細な解説がなされた。

 第6講は、「登記のための訴訟の実務」と題して、司法書士加藤俊明氏による100分の講義が行われた。
 司法制度改革において法律人口の増大が掲げられ、弁護士人口が急速に増加する中、加藤氏によると、司法書士は、簡易裁判所管轄の事件一般において法律家性を打ち出して行くのか、それとも、不動産登記訴訟等の専門分野を中心としてその法律家性を打ち出して行くのかの選択に迫られるだろうとのことである。その選択において、加藤氏は、不動産登記訴訟を中心とした専門分野に司法書士の法律家としての専門性を置くべきと考えられ、本講義では、そのような視点に基づき、不動産登記訴訟の実務に参入するためのポイントが考察された。

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