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4 裁判手続等のIT化と司法書士が担うべき役割

(1)現行制度における司法書士が担うべき役割
 裁判手続等のIT化は、3つのフェーズにしたがって進められるのであるから、司法書士としても、これに沿って責務を果たしていくことを考えると分かりやすい。
 つまり、フェーズ1の現行制度の活用からである。
 まずは代理人として受任した事件について、事案の性質に応じながら裁判所に働きかけていくことになる。
たとえば、「弁論準備手続」における電話会議は、「遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき(民訴法170条)(下線筆者)」にすることができるのだから、裁判所が遠隔の地でなくとも電話会議をすることを積極的に希望することが考えられる。また、メリハリのある訴訟運営を実現するために、電話会議にしても、「書面による準備手続」によることを求めるのもIT化のためには有益である。
 また、支払督促の依頼を受けた際には、「督オンシステム」を利用し、代理人としての改善案を裁判所に伝えることも挙げられる(技術面は最高裁判所、個別事件の運用面は東京簡易裁判所が窓口となっている。)。
 テレビ会議については、多くの司法書士にとっては、まず地元の簡易裁判所にテレビ会議をすることができる機器の設置を求めていくことから始める必要がある。本来は、より組織的に、日司連が、裁判所に対し、計画的・段階的な設置を求めていくことが望ましい。さらに、日司連が裁判所と協議のうえ、IT化推進モデル地域を設定し、裁判所は、当該地域に優先的にテレビ会議をすることができる機器を設置し、日司連は、当該地域に事務所を置く司法書士に積極的に電話会議・テレビ会議をするよう支援するといった形態が考えられる。
 このように現行制度を代理人として利用しつくした後に、本人訴訟における現行制度の活用という次の段階の対応を考えていくことになる。
 本人訴訟支援では、法的知識・IT知識に乏しい者でも、スムーズに利用できるかという視点から現行制度を見直すことになるのだから、その前提として法的知識・IT知識に長けた代理人が現行制度を使いこなせていなければ、まだ本人訴訟への対応を考える段階ではない。
 ところで、司法書士がする裁判書類作成関係業務においては、司法書士が訴訟記録である電子情報にオンラインで直接アクセスできるかという問題があり、日司連では、これを求める意見書を提出しているところであるが(注)、検討会では、消極のようである(第3、3(1))。
 業務権限に関する議論は、ともすると職域争いの議論と囚われてしまうおそれがあることから、これから開催される法制審議会では、司法書士側だけでなく常に利用者の声を聴きながら、前述の65%程度の本人訴訟に関するIT化支援策の具体案とともに検討されていくべき課題である。

(注)裁判手続等のIT化検討についての意見
http://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/02/7219a3696b25d15a47885bcdd4226ab4.pdf

(2)司法書士会が担うべき役割
 本人訴訟は、司法書士が法的支援として書類作成をする者のほか、司法書士に依頼せず、自らがすべてをする者も相当数いることは既に述べた。
 これらの層については、司法書士個人によるサポートは困難なので、司法書士会・弁護士会・法テラス等の団体がIT化支援をするしかない。
 個々の団体がそれぞれ支援をすることも考えられるし、対応の必要性・規模などからすれば、各団体が一つのIT化支援センターといったものを創設し、そこで一手に請け負うことも考えられないわけではない。
 本人訴訟の数は、将来的に増加することが予想されるのだから、これの受け皿となる団体も、窓口を相当数拡充する体制を整えておくことが必要となる。

(3)まとめ
 昨今、司法書士業務として司法書士法規則31条を根拠とする広範な業務分野がクローズアップされているが(注1)、その根底には、司法書士が専門的な法律知識を駆使できる職能であるとの利用者の期待があるからに他ならない。
 このような期待は、司法書士が長らく登記だけでなく裁判手続にも取り組んできた実績(注2)があるからこそ、寄せられているのである。
 若手をはじめとした司法書士各位は、こういった歴史的背景を忘れることなく、裁判手続等のIT化に向けて、より一層、簡裁訴訟代理等関係業務・裁判書類作成等関係業務に取り組んでいただきたい。

(注1)日司連では、近年、規則31条業務検討委員会が設置され、法的な管財人のほか、私的契約に基づく管財人としての業務などについても検討されている。
(注2)クレサラ運動を含む。

3 裁判手続等のIT化による本人訴訟への影響

(1)「取りまとめ」における本人訴訟対策
 「取りまとめ」では本人訴訟となることが多い消費者の立場から、「代理人として弁護士等が選任されていない本人訴訟のサポート環境が整備されれば、裁判手続において書面の作成・提出や期日出頭の負担が重い本人訴訟の場合等に、負担軽減につながることが期待される(下線筆者)」との意見があり(第2、1(1))、全件IT化のためには、本人訴訟へのサポートが必要であると述べられている。
 こういった意見を受け、「取りまとめ」では、「適切な担い手による充実したIT面のサポート(ITリテラシー支援策)が必要である。」との方針が示されている(第4、1)。
 本人訴訟の支援形態としては、古くから司法書士が書類作成を通じ法的支援を行っているところ、IT化に伴うIT化支援は、法的支援とは異なるものである。つまり、IT化支援に関する限り、法律実務家に限らず、どういった立場であっても本人訴訟の支援をすることができる。
 IT化支援の内容は、具体的には、紙媒体の電子化、電話会議・テレビ会議へのアクセス環境の提供、事件管理の補助などとなろう。
 もっとも法的支援とIT化支援とを明確に区別することは、理論上は可能としても、実務上は困難であることが明白であり、IT化支援の過程で、訴状の内容について本人から助言を求められることなどが容易に予想される。
 となると、IT化支援をする者が、本来意図していない非弁の誹りを受ける可能性も大いにあり、法的リスクが高い業態と言わざるを得ない。
 こういった法的リスクを考慮するならば、IT化支援は、法的支援をする者が併せて行うことが望ましいといえるだろう。つまり、司法書士が書類作成の依頼を受ける際に、当然にIT化支援をするのである。
司法書士が本人訴訟に関与している件数は、本人訴訟全体のうち65%程度と思われるところ(注)、全国の司法書士各位のこれからの対応如何によることになるが、司法書士がIT化において担うべき役割を全うすることができれば、これら65%程度の本人訴訟については、IT化に関する心配をする必要はないと私は確信している。
 しかしながら、本人訴訟の形態としては、司法書士に書類作成を依頼する者のほか、司法書士に依頼せず、すべてを自らがする者がいることも忘れてはならない。これらの層に対するサポート策私案は、後述する。

(注)司法統計23表から本人訴訟の数を求めると、総数14万8016件―双方弁護士数6万4190件=一方もしくは双方本人訴訟数8万3826件となり、日司連が全国の司法書士から集計している取扱事件数集計表のうち書類作成の数は、5万4805件であるので、5万4805/8万3826×100=約65.3%となる(いずれも平成28年度の数値)。

(2)予想される本人訴訟への影響
 裁判手続等のIT化によって、IT化に対応できない本人訴訟についてサポート体制を整えることがまず求められるが、IT化が浸透すれば、裁判所への出頭回数が減るというメリットにより、本人訴訟の件数は増えると思われる。司法書士としての実務感覚としては、裁判所に出頭することが負担だから本人訴訟をせずに代理人を選任するという層も相当数あると感じているからである。
 つまり、裁判手続等のIT化を考える際には、現状の本人訴訟の数を基準に対策を考えるのではなく、IT化により増加する本人訴訟の数を予想しつつ、その数を基準に対策を考えていくべきである。

2 現行制度の状況

(1)音声の送受信により同時に通話をすることができる方法
 いわゆる電話会議である。スピーカーフォンの状態で、裁判所と当事者双方が同時に通話をすることができる。
「弁論準備手続」に規定されており(民訴法170条3項、規則88条2項3項)、当事者が遠隔の地に居住しているときなどに多く利用されている。ただし、期日には、当事者の一方が出頭していなければならない。電話によって参加する当事者は便利であるものの、その反面、裁判所と出頭当事者によって電話会議の前後に事件に関する協議がされているのではないかとの不安感はどうしても拭えない。電話によって参加した当事者も期日に出頭したものとみなされるので(民訴法170条4項)、当事者は訴えの取下げ、和解、請求の放棄・認諾をすることができる。
電話会議は、「書面による準備手続」にも規定されており(民訴法176条3項、規則91条)、この場合は、当事者のいずれも出頭していなくとも準備手続をすることができる。行われる手続は、期日ではなく、協議のみだからである。
 まずは裁判手続等のIT化に向けて、これらの手続を積極的に利用することが期待されるが、出頭負担を減らしてメリハリの付いた審理を行うというIT化の趣旨に沿うためには、当事者のいずれもが出頭せずともすることができる「書面による準備手続」の一層の活用が求められるだろう。
 裁判手続等のIT化においても、全ての期日をオンラインで完結させることを目指すべきでないことは既に述べたとおりであるが、「書面による準備手続」の電話会議は、当事者等が出頭する期日を充実させるための期日間の制度として活用できる。
もっとも「書面による準備手続」は期日ではないので、相手方が証明責任を負う事実の主張を認めても、裁判上の自白は成立せず、当事者は、協議の結果に基づいた準備書面を改めて次回期日に提出しなければならない。

(2)電子情報処理組織による支払督促の申立て
 平成16年の民事訴訟法改正(平成17年4月1日施行)により、支払督促手続のオンライン化が規定された(民訴法397条から402条まで)。
 これを受けて、平成18年より「督促手続オンラインシステム(以下「督オンシステム」という)」が稼働し、現在では、全国の支払督促事件の処理が可能となっている。
 この「督オンシステム」の特徴は、次のとおりである。
① 書面による手続も残されており、オンラインと書面制度の併存型である。つまり、オンラインへの一本化を図る今回のIT化とは根本が異なる。
②「督オンシステム」の稼働時間は、土日祝日及び年末年始を除いた日の午前9時から午後5時までである。オンラインであっても、365日24時間というわけではない。ただし、当初は365日24時間の受付が目指されていたようであり、裁判所でも、当時の資料が未だ公表されている(注)。
(注)裁判所ホームページ http://www.courts.go.jp/vcms_lf/20910005.pdf
③「督オンシステム」を利用できる事件類型は、貸金、立替金、求償金、売買代金、通信料、リース料とこれらの複合型に限られる。請負代金(修理代金、工事代金などを売掛金として請求する場合を含む。)、給料、賃料、損害賠償、過払金など前記6類型以外の債権については、利用することができない。
④「督オンシステム」を利用するにあたって、利用者は、あらかじめ法人であれば法務省の商業登記に基づく電子認証制度、個人であれば公的個人認証制度による電子署名を利用できるようにしておかなければならない。
司法書士等の代理人による場合は、本人と代理人双方の電子署名が必要であり(代理人は「督オンシステム」で作成される委任状に電子署名する)、司法書士であっても、日司連発行の電子署名ではなく、公的個人認証制度による電子署名が必要となる。規則上は、日司連発行の電子署名でも利用できる仕組みにはなっているが(民事訴訟法132条の10第1項に規定する電子情報処理組織を用いて取り扱う督促手続に関する規則3条2項3号)、日司連発行の電子署名には司法書士の「住所」が記録されていないこともあり、システム上利用できないようだ。登記申請オンラインシステムにおける代理申請では、代理人のみが電子署名すれば足りることと比較されたい。
⑤「督オンシステム」を使用しても、申立ての際の手数料の額は変わらない。ただし、郵券等の費用の予納とともにインターネットバンキング等を利用して電子納付することができる。なお、東京簡易裁判所の登録を受けた法人であれば、申立て前の事件についても、あらかじめ郵券等の費用を一括して納付しておくことができる(民事訴訟法132条の10第1項に規定する電子情報処理組織を用いて取り扱う督促手続に関する規則8条)。
⑥「督オンシステム」の事件管理は、申立て後に付与される「IDとパスワード」で行う。IDは東京簡易裁判所の書記官が簡易書留もしくは窓口において通知する。パスワードは6文字以上10字以内であり、任意のパスワードのほか、自動生成を求めることもできる(平成18年8月9日最高裁民―第000574号東京地方裁判所長あて民事局長依命通達)。ID付与時のアナログな方法による本人確認と利用時の電子署名による本人確認という2重のセキュリティ対策ともいえる。
⑦「督オンシステム」で申立てをしても、債務者が法人の場合には、後から、資格証明書を書面で送付しなければならない(Q&A2-3)。会社法人等番号には対応していないようである。
⑧「督オンシステム」による処分の告知の到達時期については、処分に係る情報が裁判所の電子計算機に備えられたファイルに記録されて債権者がダウンロード可能な状態となり、その記録に関する通知が債権者に対して発せられた時に債権者に到達したものとみなされる(民事訴訟法399条3項、民事訴訟法132条の19第1項に規定する電子情報処理組織を用いて取り扱う督促手続に関する規則4条)。つまり、債権者が現実にダウンロードしなくとも、裁判所からのメールが送信された時に到達が擬制される。
⑨「督オンシステム」は、平成28年には、督促手続全体は約27万5000件あり、そのうちの約3分の1に相当する9万件余がオンラインで行われた(検討会第1回議事要旨)。
⑩「督オンシステム」による申立ては、東京簡易裁判所で処理されるが、督促異議後の訴訟は、本来の管轄権を有する裁判所に係属する。

 以上が「督オンシステム」の特徴といえるが、司法書士等の代理業務に携わる者の視点からすれば、利用時間・利用できる事件類型が限られているほか、電子署名が本人・代理人ともに必要であるうえ、司法書士は登記で利用している電子署名とは別に個人であれば公的個人認証制度による電子署名を準備しなければならず、こういった点を踏まえるならば、代理人が活用することがほとんど想定されていない制度であると言わざるを得ない。現実にも代理人が利用している件数は極めて少ないようである。
これからIT化の議論が深化するとともに、「督オンシステム」も改善されるだろうから、司法書士としても積極的に活用すべき制度として注視していきたい。

(3)映像等の送受信による通話の方法
 いわゆるテレビ会議である。
 証人尋問、当事者尋問に規定されており(民訴法204条、210条、規則123条)、遠隔地で出頭が困難である場合のほか、事案の性質、年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係その他の事情による場合にすることができる。当該証人・当事者は別の裁判所(直接、会いたくないような場合に同じ裁判所の別の場所で行うというケースも想定されている)に出頭し、その裁判所と受訴裁判所とでテレビ会議を行う。文書の写しを示す際には、お互いの裁判所でファクシミリを利用することができる。
鑑定にも規定されており(民訴法215条の3)、鑑定人が遠隔地にいる場合に利用することができるが、鑑定人が出頭する場所は裁判所以外であっても裁判所が相当と認めた場所(テレビ会議装置が設置されている大学、病院ないし企業など)であればかまわない(規則132条の5)。
テレビ会議をすることができる機器は、裁判所によると(注)、平成28年1月末時点で、全国106の高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所に設置されている(簡易裁判所では、東京簡易裁判所墨田庁舎のみ)。
これからIT化に向けて裁判所もテレビ会議をすることができる裁判所を増やしていくだろうから、環境が整い次第、司法書士もテレビ会議を積極的に利用する努力をしていくべきだろう。
対面式の尋問と相違ない運用をするためには難しい問題が数多く想定されるが、IT化の趣旨の趣旨に沿うためには、証人・当事者であっても、鑑定の規定のように裁判所に出頭しないことを目指すべきであろう。
また、電話会議よりもテレビ会議の方が意思疎通を円滑に図ることができることは当然なので、「弁論準備手続」や「書面による準備手続」でテレビ会議を活用することも考えられる。
(注)知的財産高等裁判所ホームページ
http://www.ip.courts.go.jp/vcms_lf/terebikaigiitiran.pdf

1 裁判手続等のIT化に向けて

(1)検討会の方向性
 政府の「未来投資戦略2017」(平成29年6月9日閣議決定)において、「迅速かつ効率的な裁判の実現を図るため、諸外国の状況も踏まえ、裁判における手続保障や情報セキュリティ面を含む総合的な観点から、関係機関等の協力を得て利用者目線で裁判に係る手続等のIT化を推進する方策について速やかに検討し、本年中に結論を得る。」とされたことを受け、平成29年10月に「裁判手続等のIT化検討会(以下「検討会」という)」が設置され、平成30年3月30日には、検討会より「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ―「3つのe」の実現に向けて―(以下「取りまとめ」という)」が公表された。
 「取りまとめ」では、裁判手続等のIT化に当たり、「民事訴訟手続における①e提出(e-Filing)、②e法廷(e-Court)、③e事件管理(e-Case Management)の実現(3つのe)を目指す」という観点から検討が進められている。
 具体的には、次のとおりである。
 「e提出」とは、当事者等が、訴状、答弁書、準備書面、証拠等を裁判所に提出することである。今までは、持参、送付、ファックスにより行われてきた行為をいかにオンライン手続に置き換えるかという点がポイントとなる。検討会では、単に電子メールによる送信に置き換えることは考えられていない(第2、2(1))。データの送信の際の電子署名の有無も検討課題となりうるが、この点について検討会は消極のようである(第4、2)。
 「e法廷」とは、期日において、当事者等の一方又は双方によるテレビ会議やウェブ会議の活用を大幅に拡大することである。今でも当事者の一方が遠方であったり期日に出頭できなかったりする場合に電話会議は頻繁に利用されているところ、さらにテレビ会議やウェブ会議を活用することが想定されている。遠方の裁判所であっても、出頭せずに審理を進めることができるようになれば、管轄の定めや移送に関する制度は有名無実となる可能性を秘めている。もっとも検討会では、IT化によるメリハリのある訴訟運営を目指すという方針が示されており(第2、1(1)、第3、4(1)、(3)、(4)、(5))、そうであるならば、IT化は手続の一部の簡略化のために用いられるべきであり、全ての手続のIT化を目指すべきではない。また、成りすまし等のリスクを排除できない以上、当事者等が裁判所に1度も出頭せずに訴訟が完結することを目指すべきではない。
 「e事件管理」とは、当事者等が、裁判所が管理する事件記録や事件情報につき、オンラインでアクセスすることである。これにより、当事者等が直接裁判所の保有する訴状、答弁書その他の準備書面や証拠等の電子情報にオンラインでアクセスできるようになれば、裁判所が当事者等にこれらを実際に送達するのではなく、アクセスできる状態になった旨を電子メールで通知することによって到達擬制とすることが考えられる(民訴法399条3項参照)。
また、今までは、原告と裁判所の都合で第1回期日の日時が決められることが多かったところ、オンラインで被告の都合も踏まえながら期日調整をすることとすれば、これまでは空転しがちであった第1回期日から実質的な審理ができるようになる。となったら、当然これに連動して陳述擬制の規定(民訴法158条)も見直す必要性がでてくるなど、民事訴訟のルール自体にも大きな影響が及ぶだろう。
 これら「3つのe」のうち、もっとも重要と思われるものは、裁判の入り口となる「e提出」において、オンラインでの訴え提起に移行していく方向性が示されている点である(第2 2(1)、第3 2(1)、(2))。すなわち、紙媒体の訴状等の廃止である。
 司法書士にとっては、登記申請オンラインシステムの例があるので、これと同じくオンライン申請の場合には手数料軽減等のインセンティブを付与したうえで、紙媒体とオンラインとの併存型のIT化を考えがちかもしれないが、検討会では、そのような緩やかなIT化は念頭に置かれていない。
 併存型ではコストが膨大となるほか、おそらく、過去の実績(平成16年以降、一部の手続につきオンライン申立てを可能とする試行が札幌地方裁判所で実施されたものの、利用はわずか2件のみだった(検討会第1回議事要旨))から、紙媒体とオンラインとを利用者が選択できるのであれば、多くが慣れ親しんだ紙媒体による提出を選択し、オンラインが普及しないと見込んだのではないだろうか。
 そして、IT化により、全件オンライン申請を目指すという方針を前提とする際に、併せて検討されなければならない点は、セキュリティについてである。
 「取りまとめ」では、いくつかの理由付け(注1)をしたうえで、「システム利用の認証についても、電子署名を基盤としたデジタルIDを必須の前提とせず、様々な認証手段(例えば、ID・パスワード等)を許容する」方針であることが示されているが(第4、2)、電子署名が必須の前提とされないのは、「取りまとめ」で述べられている理由だけでなく、全件オンライン申請という基本方針が何よりも優先されたからだろう。
全件オンライン申請について電子署名が必須となると、利用者にとっては電子署名が強制される状況となるが、それには公的個人認証サービスの普及率が低いという現実問題(注2)に加え、憲法で裁判を受ける権利が保障されているところ(憲法32条)、その権利の実現のために個人は必ず公的個人認証制度を利用しなければならないとなると、捉えようによっては新たな憲法問題(注3)に発展するおそれがあり、そういったリスクを回避するためではないだろうか。
 こういった問題意識を踏まえる限り、全件オンライン申請のためには、簡便なセキュリティとならざるを得ないという点は理解できるものの、IT化によって、誤りが起きてしまってはならない。
誤りとは、すなわち、当事者本人の相違(成りすまし)、非公開とされるべき裁判の内容の漏洩である。
これらについて、ID・パスワードの発行方法や法廷などにおけるアナログな確認といった複数の手段を併用しつつ、けっして誤りが起きない仕組みづくりを考えていかなければならない。この意味においても、オンラインだけで訴訟手続が完結すべきではない。
 また、「e提出」においては、原告が裁判所にいかにデータを送信するかという場面だけでなく、裁判所が被告にいかにデータを送信するかという場面も含まれている。もっとも被告は、必ずしもオンラインを利用できる環境にあるとは限られないため、少なくとも被告側については、オンラインへの一本化は不可能であり、書面の郵送をオプションとして残しておかざるを得ないだろう。

(注1)「取りまとめ」では、「訴訟記録の内容や性格、裁判の公開原則等との関係」「想定される障害や漏洩等による影響が限定的」との理由付けがされている(第4、2)。
(注2)総務省によると、マイナンバーカードの全国の人口に対する交付枚数率は、10.7%である(平成30年3月1日現在)。なお、この数値は、マイナンバーカードの交付数に基づくものであり、すべてのマイナンバーカードに電子証明書が記録されているとは限らない。
(注3)法務省によると、現在係属しているマイナンバー訴訟は、全国8か所の地方裁判所に、憲法13条で保障されたプライバシー権(自己情報コントロール権)が侵害されるとの主張で提訴されている(平成30年1月31日現在)。

(2)実現に向けたスケジュール
 「取りまとめ」では、裁判手続の全面IT化に向けたプロセスとして、実現段階に応じて3つのフェーズに分け、順次、新たな運用を開始していくアプローチが考えられている(第5、3)。
 3つのフェーズとは、次のとおりである。
《フェーズ1》現行法の下でのウェブ会議・テレビ会議等の活用(e法廷)
《フェーズ2》新法に基づく弁論・争点整理等の運用(e法廷)
《フェーズ3》オンラインでの申立て等の運用(e提出、e事件管理)
 このうち、フェーズ1は、法改正によることなく、運用が可能なものである。実現のハードルが比較的低く、機器整備等が整い次第、2019年度からにも特定庁での試行等による成果が期待されているが、現行法や現状の機器で直ちに対応できる部分もあるので、法律実務家は今のうちから将来のIT化を見据えた運用を意識していくことが求められる。
 フェーズ2、フェーズ3については、民事基本法の法改正が必要となる部分である。フェーズ2に関しては、2022年頃から開始することが目指されており、2019年度中には法制審議会への諮問が見込まれている。また、フェーズ3に関しては、開始時期は未定であるものの法制審議会への諮問の時期はフェーズ2と同様とされている。フェーズ3の開始時期等のスケジュールについては、2019年度中に法務省を中心に検討される。
 このとおり法改正が必要となる部分のうちフェーズ2については、2022年頃の開始を目指しているとなると、IT化に関する民事基本法の改正は、2020年か2021年には成立していなければならない。つまり、2019年に法制審議会への諮問、早ければ翌年に成立というスピード感のあるスケジュールだ。
また、フェーズ1については、現段階でも直ちに運用開始できるものもあることから分かるように、裁判手続等のIT化は、実は、既に始まっているといって差し支えない状況にある。
 そこで、次項では、フェーズ1に掲げられた「e法廷」の一部となる現行制度についてみてみよう。

プロフィール

Author:赤松 茂
あかまつ司法書士事務所
静岡県沼津市下河原町48番地

【TEL】055-963-8002

【Mail】 quick-response@nifty.com

(平成26年5月に事務所移転しました。)

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