債権法改正シンポジウム~債権法のこれから~

 平成24年9月29日(土)13時30分から17時まで、さいたま・浦和において、埼玉司法書士会・埼玉青年司法書士協議会主催で、「債権法改正シンポジウム~債権法のこれから~」が開催されたので、参加した。
 県内外の司法書士150名ほどが参加した。
 シンポの次第は次のとおりである。
【基調講演】
「法制審議会民法(債権関係)部会の審議状況」法務省参事官 筒井健夫氏
「民法(債権法)改正の課題」法務省参与 内田 貴氏
【パネルディスカッション】
 消費者・事業者概念、契約交渉段階、複数契約の解除
コーディネーター 埼玉司法書士会会員 嶋根琢磨氏
パネラー     法務省参与     内田 貴氏
         全青司民法改正対策委員会委員長 井上尚人氏
         埼玉消費者被害をなくす会理事、日本消費法学会会員 古久根章典氏
         埼玉司法書士会会員 上松隆行氏
 
            *

 内田参与と筒井参事官の講義は、今年の6月に静岡でも拝聴したところであるが、説明の内容や取り上げるテーマが、かなり異なっていた。このことからも、相当のスピードで法制審の議論が進められていることが伺える。
 パネルディスカッションでは、時間の都合上、取り上げる論点は少なくならざるを得なかったものの、内田参与と司法書士らとの意見交換は充実したものであった。
 このシンポジウムを機に埼玉でも来春のパブリック・コメントで多くの意見が出されるだろう。
 全国でも、同様のシンポジウムが開催されることに期待したい。

日司連執務問題検討委員会

 平成24年9月24日は日司連において執務問題検討委員会が開催されたので、委員として参加した。
 当委員会では、簡裁代理権の範囲や本人訴訟支援の在り方などについて検討している。
 本人訴訟支援としては、高松高判昭和54年6月11日の判決理由を改めて研究しているところだ。
 この高裁判決は、「制度として司法書士に対し弁護士のような専門的法律知識を期待しているのではなく、国民一般として持つべき法律知識が要求されていると解され、従って上記の司法書士が行う法律的判断作用は、嘱託人の嘱託の趣旨内容を正確に法律的に表現し司法(訴訟)の運営に支障を来たさないという限度で、換言すれば法律常識的な知識に基く整序的な事項に限って行われるべきもので、それ以上専門的な鑑定に属すべき事務に及んだり、代理その他の方法で他人間の法律関係に立ち入る如きは司法書士の業務範囲を越えたものといわなければならない。」という部分が司法書士からは問題視されることが多い。
 当委員会では、「そもそも、この部分を問題視する必要があるのだろうか」というところから議論している。
 議論すると、「法律常識的な知識」や「鑑定」という用語が極めて多義的であり、各人のイメージするところが、それぞれ微妙に違うということにも驚かされる。
 まずは、こういった用語や基本となる概念についての定義付けをしないとならないのだろう。

青森県司法書士会「簡裁訴訟代理権の範囲と本人訴訟支援について」研修会

 平成24年9月8日14時45分から18時まで、青森において、青森県司法書士会主催で「簡裁訴訟代理権の範囲と本人訴訟支援について」というテーマで研修会が開催されたので、小澤吉徳先生とともに講師として登壇させていただいた。
 受講生は40名前後であり、全会員の3分の1ほどにご参加いただいた。

 私のパートでは、司法書士法3条1項6号及び7号の条文の整理、それら条文に関する問題点、実際に訴訟になっているものの事案解説などを行った。

 小澤吉徳先生のパートでは、本人訴訟支援の在り方から参加者を交えてのディスカッションが行われた。
 小澤吉徳先生の職域問題という狭い視点で、この問題を捉えるのではなく、利用者の裁判を受ける権利の保障という視点から考えていかなければならない、という解説が印象に残った。

 このテーマでの講師派遣は、随時募集中である。
 希望される会は、日司連事務局にまでお問い合わせいただきたい。
 

簡易裁判所における本人訴訟支援の実務 その6

5 これから
 少額民事紛争においては、事例として俯瞰したとおり実務においても、当事者にとって「簡易」、「迅速」な解決が重視された場合に、代理人に裁判を依頼したいというものがあり、一定の傾向があるといってよいだろう。
もちろん代理人自体の敷居が高くてはダメだ。
代理人となる者への相談が「簡易」、「迅速」にできなければならないということは言うまでもない。
また、代理人に裁判を依頼したとしても、当事者は、基本的には「低コスト」な解決を望んでいることが多い。
 一方、当事者にとって「低コスト」な解決が最も重視された場合には、本人自らが裁判するというものがあり、こちらにも一定の傾向がみられる。
 しかしながら、いずれの傾向にも例外はつきものであり、結局のところ、簡易裁判所における本人訴訟のニーズは、「低コスト」な解決が最も重視された場合、もしくは、本人自身が訴えることに意義がある場合にみられるといえる。
このような傾向を踏まえながら、司法書士は、書類作成業務もできるし、代理業務もできるという紛争に対し、本人訴訟が適しているケースもあるということを念頭において依頼者へ助言し、適宜、妥当な関わり方が選択されていくべきである。
 もっとも、代理業務として関わっていくとしても、そのベースには書類作成業務を根本に据えた本人訴訟支援という姿勢が貫かれていなければならない。
 「低コスト」な解決を図りたいという要望や本人自らが訴えることに意義があるというケースは何も本人訴訟に限ったものではないからだ。
 本人訴訟支援の一形態として司法書士代理がある。
 そのような関わり方が少額民事紛争における司法書士の独自性につながっていくのだろう。
 私は、そう考えている。


簡易裁判所における本人訴訟支援の実務 その5

(2)本人訴訟支援型
 ① 「低コスト」に解決したいという要望によって本人訴訟が選択された事例
 ◆貸金請求の被告事件で被告が請求されている内容について特段異議がないという事例において、「低コスト」に解決したいという要望によって、司法書士が裁判書類を作成し、本人自らが訴訟の対応をされたもの
  ☞ もっとも、司法書士との間で事前に和解水準などについての入念な打ち合わせは必要である。
 ◆通信教育の役務が提供されないため、業者(法人)に対して既払いの教材費の請求につき少額訴訟の判決を取得したところ、業者(法人)の代表者に対する貸付金が判明し、当該貸付金に対して少額訴訟債権執行をしたものの、第三債務者である代表者より任意の支払いがなされないという事例において、債務者、第三債務者所在地ともに管轄が遠方となるので、「低コスト」に解決したいという要望によって、司法書士が裁判書類を作成し、本人自らが対応するとして、取立訴訟が選択されたもの
  ☞ 管轄が遠方となるケースは、コストを抑えるための本人訴訟が選択される典型例であるといえる。
 ◆アパートの賃貸借契約終了に伴い、退去したものの、敷金の返還額に不満があるので、賃借人から賃貸人に対して敷金を請求するという事例において、「低コスト」に解決したいという要望によって、司法書士が裁判書類を作成し、本人自らが対応するとして、少額訴訟が選択されたもの
  ☞ 敷金返還に関する(少額)訴訟は経験上和解で終了することが多いため、本人訴訟にもなじみやすいと思われる。
 ◆物損交通事故の被害者が保険未加入の加害者に対して損害賠償を請求するという事例において、「低コスト」に解決したいという要望によって、司法書士が裁判書類を作成し、本人自らが対応するとして、調停が選択されたもの
  ☞ 被害者も保険未加入であったために弁護士、司法書士特約を利用できなかったという事例である。
 ◆物損交通事故の被害者が保険未加入の加害者に対して損害賠償を請求するという事例において、「低コスト」に解決したいという要望によって、本人自らが対応するとして、訴訟を選択したものの、訴訟遂行が困難となったために、司法書士が裁判外で代理し、示談交渉を締結して、当該訴訟を取下げたもの
  ☞ 進行している本人訴訟に対して、この事例のように裁判外で代理人となり、訴訟を取下げるものもあれば、途中から司法書士が裁判書類の作成として引き続き訴訟を係属するものもある。

 ② 採算を度外視してでも解決したいし、かつ、自らが訴えることに意義があるという要望によって本人訴訟が選択された事例
 ◆本来であれば昼休みが60分間あるはずなのに45分間しか取得できないので、1日あたり15分間のサービス残業が発生しているとして、2年分のサービス残業代数万円を請求するという事例において、本人自らが会社と交渉することによって職場環境を是正したいという要望によって、司法書士が裁判書類を作成し、本人自らが対応するとして、訴訟が選択されたもの
  ☞ 会社の労働組合が機能していないため、訴訟が会社との交渉のきっかけとして機能したものである。本事例では、後日、職場全員の賃金計算が変更され、本人も在職を続けることができた。
 ◆友人に金銭を貸付けたものの転居後10年近く連絡が取れなくなってしまったので、消滅時効を中断させるためにも貸金を請求するという事例において、連絡を寄こさない相手方の真意を知りたいという要望によって、司法書士が裁判書類を作成し、本人自らが対応するとして、訴訟が選択されたもの
☞ 本事例では、提訴後、相手方より本人に対し、心からの謝罪があり、これに納得した本人は時効が成立してもかまわないので、訴訟を取下げてほしいとの意向を示され、司法書士が取下書を作成した。訴訟が当事者間の対話のきっかけとして機能したケースともいえる。
 ◆元配偶者から暴行を受けたことにより、元配偶者に対して損害賠償を請求するという事例において、元配偶者が暴行におよんだ真意を知りたいという要望によって、司法書士が裁判書類を作成し、本人自らが対応するとして、訴訟が選択されたもの
  ☞ 本事例では、元配偶者が請求額全額を認容するという形で訴訟が終了したものの、元配偶者が暴行におよんだ真意は分からずじまいであった。訴訟は勝ったものの本人としては納得がいかない終結となった。
 ◆配偶者のある人と不貞行為をしたところ、当該配偶者から不法行為に基づく損害賠償請求の訴訟を提訴されたという被告事件において、当該配偶者に謝罪の気持ちを伝えたいという要望によって、司法書士が裁判書類を作成し、本人自らが対応することが選択されたもの
  ☞ 本事例では、本人の謝罪を汲んで、請求額が減額された上で分割払いの和解が成立した。被告代理人が応訴していたら、和解が成立しなかったかもしれないケースといえる。
 ◆アパートの賃貸人が賃借人に対し、老朽化による建替えを検討しているので、立退きを要求したいという事例において、賃貸人が代理人をつけると、賃借人も対抗して代理人をつけることが予想され、そうなるとかえって高額の立退料を請求されるのではないかとの懸念によって、司法書士が裁判書類を作成し、本人自らが対応するとして、調停が選択されたもの
  ☞ 当事者同士で話をしようという意向のシグナルとして、本人訴訟(調停)が選択されたケースといえる。

簡易裁判所における本人訴訟支援の実務 その4

4 簡易裁判を利用した少額民事紛争の解決事例
(1)代理型
 ① 「簡易」、「迅速」、「低コスト」に解決したいという要望によって代理が選択された事例
 ◆クーリングオフにより既払いのエステ代を請求するという事例において、「迅速」な解決が意識され、司法書士を代理人とし、事前交渉によって請求額の支払いを認めさせたうえ、履行を確実なものとするために、訴え提起前の和解が選択されたもの
 ◆不貞行為の事実を認める配偶者の相手方に対して慰謝料を請求するという事例において、「迅速」な解決が意識され、司法書士を代理人とし、事前交渉によって請求額の支払いを認めさせたうえ、履行を確実なものとするために、訴え提起前の和解が選択されたもの
 ◆スキー場での衝突事故によって、見知らぬ相手に怪我を負わされ、その加害者に対して損害賠償の請求をするという事例において、被害者自らが交渉したり裁判をしたりするエネルギーをかけたくないと「簡易」な解決が意識され、司法書士を代理人とし、訴訟が選択されたもの
 ◆業者間で請負代金の未払いが生じ、相手方業者に対して請負代金を請求するという事例において、経営者として自らが交渉したり裁判をしたりするエネルギーをかけたくないと「簡易」な解決が意識され、司法書士を代理人とし、訴訟が選択されたもの
 ◆自分が加担していた販売勧誘がマルチ商法であったことに気がつき、クーリングオフにより、業者に対して既払いの代金を請求するという事例において、交渉に時間がかかると相手方会社が行方をくらましてしまうといったおそれがあると「迅速」な解決が意識され、司法書士を代理人とし、訴訟が選択されたもの(現に、同会社に対する別の顧客が一か月遅れて提訴したときは所在不明となっていた。)
  ☞ ここでの「迅速」とは、訴訟手続の迅速さというよりも、訴訟に迅速に着手するという意味合いである。
 ◆インターネット通販において代金を支払っても商品が送られてこないので、販売会社に対して既払いの代金を請求するという事例において、「迅速」な解決が意識され、司法書士を代理人とし、少額訴訟、少額訴訟債権執行が選択されたもの
 ◆通信教育の役務が提供されないため、業者に対して既払いの教材費を請求するという事例において、「迅速」な解決が意識され、司法書士を代理人とし、少額訴訟、少額訴訟債権執行が選択されたもの
 ◆事前交渉により使用者が未払賃金の存在を争わない意向であることが判明しているという事例において、使用者が遠方に居住していたとしても、「低コスト」な解決が意識され、裁判費用を抑えるために、司法書士を代理人とし、遠方の簡易裁判所に対する支払督促が選択されたもの
  ☞ 「簡易」、「迅速」な解決を図るために司法書士を代理人としつつ、裁判費用は少しでも「低コスト」に抑えたいという要望である。
◆自動車保険会社が被害者である契約者に車両保険の保険金を支払い、加害者に対して求償請求するという事例において、弁護士に委任するよりもコストを抑えたいという「低コスト」な解決が意識され、司法書士を代理人とし、訴訟や支払督促が選択されたもの
  ☞ 代理人に依頼するとしても、司法書士の報酬の方が相対的に安いだろうという期待が「低コスト」という要望につながっている。

 ② 採算を度外視してでも解決したいという要望によって代理が選択された事例
 ◆職場内での上司から暴力をふるわれ、傷害を負ったことにより上司に対して慰謝料請求するという事例において、相当な慰謝料額について司法判断を仰ぎたいという要望が意識され、コストを考慮せずに、司法書士を代理人とし、訴訟が選択されたもの
 ◆双方に保険の適用のない物損交通事故で加害者に損害賠償請求するという事例において、それまでの加害者の対応に不満を持っており、相手方の出頭を促すために、コストを考慮せずに、司法書士を代理人とし、遠方の裁判所への支払督促が選択され、異議後の訴訟まで進んだもの
 ◆労働者が退職した後に退職金請求をしたところ、会社より、当該労働者は既に相当期間前に定年退職し、その後に嘱託職員として再雇用したことになっており、正社員としての退職金は時効にかかり、嘱託職員としては退職金の支給規定はないと退職金の支給を拒まれたので、当該労働者が会社に対して退職金の支払いを請求するという事例において、定年退職の不存在を証明するために司法判断を仰ぎたいという要望が意識され、コストを考慮せずに、司法書士を代理人とし、訴訟が選択されたもの
 ◆アパートの賃貸人より賃借人の保証人に対し、数年分の未払い賃料の請求がされたという被告事件において、賃借人の賃貸借契約には期間があるにもかかわらず、保証人の保証契約は期間がないという契約内容は消費者契約法10条に反する可能性があるとして司法判断を仰ぐために、コストを考慮せずに、司法書士を代理人とし、訴訟が選択されたもの
 ◆被害者の過失がゼロの物損交通事故で加害者が保険未加入であったために被害者が直接加害者に損害賠償請求するという事例において、過失がないために被害者の保険は利用できないが、弁護士、司法書士特約を利用することができたために、コストを考慮せずに、司法書士を代理人とし、訴訟が選択されたもの
 ☞ 保険や法律扶助などを利用することにより、コストを考慮する必要がなくなったために代理を選択することができたという意味合いである。

簡易裁判所における本人訴訟支援の実務 その3

3 司法書士の少額民事紛争への関与の在り方
(1)複数の関与の在り方
 簡裁の事物管轄を超える経済的利益が紛争の対象となっているのであれば、司法書士は裁判書類作成関係業務として関与するほかないのであるから、関与の在り方について検討するまでもない。
 一方、簡裁の事物管轄の範囲内の経済的利益が紛争の対象となっている際には、司法書士は、裁判書類作成関係業務のほか、簡裁訴訟代理関係業務としても関与することができるが、それぞれの業務の関わり方、とくに簡裁代理訴訟関係業務の特徴について留意しておいたほうがよい。
 具体的には、次のとおりである。

(2)簡裁訴訟代理関係業務
 ① 裁判外の代理関係業務との整合性
 司法書士法3条2項に該当する司法書士(以下、単に「司法書士」という)は、同条1項6号に規定される裁判について代理することができるが、多くのケースにおいて、同条1項6号に規定される裁判に入る前に、事前交渉を行うことになる。できれば面倒な裁判は避けて紛争を解決したいという少額民事紛争の当事者の要望があるときは、事前交渉が必須となるからだ。なお、事前交渉の根拠は、司法書士法3条1項7号に規定される代理権限である。
 裁判を代理する前に、通常、代理人として事前交渉する、ということを踏まえれば、司法書士法3条1項6号に規定される業務範囲と同項7号に規定される業務範囲とは一致すると解されなければならない。そうでなければ、裁判は代理してできるが事前交渉は代理してできない、もしくは事前交渉は代理してできるが裁判は代理してできない、といった問題が生じてしまうからだ。
 ところが、制限付代理権という制度を厳密に考えれば考えるほど、いくつかの局面で、代理権の範囲内なのか否か、はっきりとは分からないという部分が生じる。このような問題は立法当初から想定されていたと思われるものの、立法時に確立した見解が示されていない点もある。このような背景事情を踏まえるならば、司法書士は、少額民事紛争であっても、すべてを代理するといった関わり方は考えない方がよいように思う。
 
 ② 簡裁訴訟代理関係業務の限界
 司法書士は、簡裁の事物管轄の範囲内の経済的利益が紛争の対象となる裁判であっても、控訴審以上については代理することができず、通常の強制執行についても代理することができない。
 また、いったん、依頼人の代理人として裁判の代理人となっても、相手方から簡裁の事物管轄を超える反訴がなされた際には、当該反訴においては代理することができないし、地裁に移送されると当該訴訟について代理することができなくなる。
 このように相手方の主張や裁判所の判断によっては代理人としての活動が制限されるということには常に留意しておく必要がある。
 一方、強制執行は代理できなくとも、取立訴訟は代理できるなど、規定の在り方全体として違和感があるケースもあり、代理権限の有無は極めて形式的に画されているといえよう。
 このように見てみると、裁判外の代理関係業務の範囲は不明確であるという側面もあり、裁判上の代理関係業務についても、相手方の対応等によって不安定になるとも思える側面をもつ代理業務であるが、一定の範囲では充実したものとなりつつある。
 それは、少額訴訟が対象となる範囲だ。

 ③ 少額訴訟の利用による回収までを見据えた終局的解決
 訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする事例については、少額訴訟の利用を検討することができ、原則として少額訴訟に係る債務名義であれば、司法書士は債権執行までを代理してすることができる。
 申立の際には一回審理ができる程度の主張立証の準備を整えておく必要があるが、司法書士が代理人となるのであれば、全く問題ないだろう。
 少額訴訟の手続の迅速さはいわずもがなであるし、また、司法書士が回収の局面までを代理することもできるということは、当事者にとって簡易な手続であるということもできる。少額訴訟の利用を検討することができる事例では積極的に提案していくことが望ましい。
 
(3)裁判書類作成関係業務
 ① 裁判書類作成関係業務として受任するしかないケース
 簡裁の事物管轄の範囲内の経済的利益が紛争の対象となっている際であっても、裁判書類作成業務として受任するしかないケースもある。
 依頼人が、地方裁判所を専属管轄とする裁判の利用を希望されている場合だ。
地方裁判所が専属管轄となる裁判としては、たとえば、労働者が使用者に対する未払賃金の請求について労働審判制度を利用して請求するケース、一定の対象となる犯罪被害者が加害者に対する損害賠償請求について犯罪被害者保護法17条に基づく損害賠償命令申立制度を利用して請求するケースなどがある。
 司法書士は、依頼人の求める経済的利益が簡裁の事物管轄の範囲内だからといって簡易裁判所での裁判に拘ることなく、妥当と思われるケースでは、むしろ積極的に地方裁判所を専属管轄とする裁判の利用を提案するべきである。

② あえて裁判書類作成業務として受任するケース
 一方、簡易裁判所に対する訴訟や調停などであっても、依頼人があえてご自分で提訴したいというケースもある。
 自分で提訴する理由は、紛争解決に要するコストを抑えたいという「低コスト」な解決が意識されたものと、依頼人自身が提訴することに強い意義を感じているものとに大別することができる。
 経験上、数としては前者が圧倒的に多いと感じている。
 簡易裁判所において司法書士が関わったとしても、あえて本人訴訟を選択するという事例を具体的に考察することによって、代理と本人訴訟支援の関与の在り方を比較することが本稿の狙いでもある。
 それでは、以降、代理と本人訴訟支援との相違を踏まえつつ、実際に筆者が経験した事例を脚色した上で題材にして、簡易裁判所を利用した少額民事紛争の解決事例を俯瞰していくこととしよう。
 

簡易裁判所における本人訴訟支援の実務 その2

2 裁判における「簡易」、「迅速」、「低コスト」のニーズの原則と例外
(1)簡易
 少額民事紛争は、その紛争の解決によって得られる利益が紛争の額に比例して少額となることが通常であることから、当事者は、紛争解決に向けた手続を選択する際、できる限り簡易な手続を希望することが多く、さらに、紛争解決に多くのエネルギーをかけないことを求めていることも多い。
 これを裁判に当てはめてみると、通常の訴訟よりも申立ての手続負担の軽い、支払督促、調停を利用することが望ましいということになろうし(少額訴訟は一回審理で判決言渡しできるほどの主張立証を求められるという意味では当事者本人にとっては申立ての手続負担が重いと言えるかもしれない。もっとも裁判所における受付相談が充実しているので、それほど大きな弊害ではないとは思われる。)、さらに、自らのエネルギーをさほどかけずに解決したいというニーズは、本質的には、できることなら代理人に一任したいという要望に繋がることになる。

(2)迅速
 同様の理由から、当事者は、紛争解決に向けた手続を選択する際、できる限り迅速な手続を希望することが多く、さらに選択した手続の中でも、迅速に解決することを求めていることが多い。
 これを裁判に当てはめてみると、原則として一期日審理である少額訴訟を利用することが望ましいということになろうし(支払督促は異議があると通常訴訟に移行するため、かえって時間がかかるという側面もあるし、調停は合意の強制力がないため、不調になれば、結局、別の裁判をしなおさなければならないという側面がある。むしろ、調停成立する案件であれば、示談交渉でまとめ、債務名義が必要であれば即決和解を利用するべきとも言える。)、さらに、仮に当事者が複数回の期日が設けられる裁判(通常の訴訟など)を選択したとしても、同裁判内において早い段階での和解等による解決を求める傾向が強いと言え、このような早期解決のニーズは、本質的には、できることなら裁判や交渉に長けた代理人に一任したいという要望に繋がることになる。

(3)低コスト
 少額民事紛争から得られる経済的利益が少額であることから、当事者は、紛争解決に向けた手続を選択する際、できる限り低コストな手続を希望することが多く、さらに紛争解決そのものについても低コストに抑えることを求めていることが多い。
 これを裁判に当てはめてみると、納める印紙額の負担の少ない支払督促や調停を利用することが望ましいということにはなろうが、実際のところ、少額民事紛争は裁判をしても納める印紙額が少額であるため、裁判に要する印紙代や郵券代などの費用はそれほど重要な要素とはならないと思われる。むしろ、法律実務家に要する費用が当事者の最大の関心事となろう。
 前述の「簡易」、「迅速」に解決したいという特徴からは代理人に依頼したいという潜在的な要望を導き出すことができるが、この「低コスト」に解決したいという特徴によって、代理人に依頼したいという潜在的な要望のほとんどは覆されてしまう。その結果、当事者はコストを抑えるため、自らが相当のエネルギーを消耗し、慣れていないし手間もかかる本人訴訟を選択することになるというケースもあるし、紛争の額に比し多大なコストがかかるくらいであれば、裁判を諦めるというケースも生じることになる。
 このように「低コスト」に解決したいという特徴から生じる当事者の泣き寝入りを極力抑えるために、少額民事紛争に特化した法律実務家でもある司法書士は、報酬を含め、できる限り紛争解決コストを抑える努力をするべきであるといえるだろう。

(4)例外
 もちろん少額民事紛争に直面した当事者の中には、「簡易」、「迅速」、「低コスト」といったことを無視してでも、しっかりとした司法判断を仰ぎたいと希望する方もいる。
 表面的な経済的利益と当事者の考える紛争解決利益とが異なる場合だ。
 このような場合には、当事者は、通常、採算を度外視して、法律実務家を代理人として裁判を行い、紛争解決にあたることが多いが、自ら訴えることに意義があるときには、あえて本人訴訟が選択されることもある。
 いずれにせよ、このような場合には、依頼を受けた法律実務家は、少額民事紛争だからといって、「簡易」、「迅速」、「低コスト」な解決に拘る必要はない。上級審での判断をも仰ぐことや強制執行までをも視野に入れた裁判を進めることになろう。
 しかしながら、本来であれば、表面的な経済的利益と当事者の考える経済的利益とが一致していたにもかかわらず、交渉の過程で相手方の対応に憤慨するなどして、いわゆる「引くに引けなくなった」という状態で、当事者が採算無視の裁判を進めようとするケースもあるので留意が必要である。
 時間の経過によって当事者が冷静になり、採算を無視した裁判を選択したことを後悔するときもあるからだ。
このようなおそれのあるときは、依頼を受けた法律実務家は当事者をいったん諌めるなどして、当事者が冷静になるのを待った方が良いだろう。

簡易裁判所における本人訴訟支援の実務 その1

1 少額民事紛争に直面した当事者のニーズ
 司法書士の紛争への関わり方は、裁判書類作成を通じ、本人訴訟支援をするという従来からの関わり方に加え、10年程前から訴額が簡裁の事物管轄に収まるというような一定の場合には、代理人となって紛争に関与するという関わり方も選択できることとなった。
 このように書類作成業務もできるし、代理業務もできるという紛争に対し、司法書士は、どのように関わっていけばよいのだろうか。
 ここでは、主に簡易裁判所における紛争解決事例を基にして、この問いかけについて考えてみたい。
なお、本稿においては、司法書士が代理人となって関与することのできる紛争を便宜、「少額民事紛争」と呼ぶこととする。
 ところで、少額民事紛争に直面した当事者には、通常額の紛争に比して、その紛争額の少なさから、紛争解決に向けた方法を選択する際に、いくつかの特徴を見出すことができる。その特徴とは、紛争額の少なさゆえ、大層なことをしてまで解決したのでは割に合わないという当事者の心情によるものだ。
 すなわち、「簡易」、「迅速」、「低コスト」に解決したいという特徴である。
 少額民事紛争に直面した当事者は、通常、これらの特徴を意識するために、できることなら、極力、自分で紛争の相手方と交渉して解決してしまいたいという思いが先に立つことが多いし、自らでは解決せず、やむを得ず法律実務家に示談交渉を依頼する際にも、「示談が無理なら、それで諦める。裁判をすることまでは考えていない。」と紛争解決方法に制限を加えられる方々も多い。
 私たち司法書士の基に寄せられる相談も例外ではなく、少額民事紛争の当事者が裁判までは望まないというケースでは、まず、当事者の期待に応えるために示談交渉による解決を図ることとなる。そのため、少額民事紛争においては、ことさら示談交渉のスキルが求められるということがいえるだろう。相談を受けた司法書士に、このスキルがなければ、裁判までは望まないという少額民事紛争の当事者は、その時点で泣き寝入りとなってしまう。
 もっとも、少額民事紛争であっても裁判をするというケースも少なからずある。しかしながら、裁判を検討する際においても、当事者は「簡易」、「迅速」、「低コスト」に解決したいという気持ちを強く持たれていることが大半である。
 そこで、裁判の局面における「簡易」、「迅速」、「低コスト」という特徴について一つずつ考察してみよう。

プロフィール

Author:赤松 茂
あかまつ司法書士事務所
静岡県沼津市下河原町48番地

【TEL】055-963-8002

【Mail】 quick-response@nifty.com

(平成26年5月に事務所移転しました。)

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