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裁判手続のIT化をめぐる司法書士事務所の風景(その2)

 2019年には裁判手続のIT化について法務大臣から法制審議会に諮問される見込みです。このIT化により、裁判手続は抜本から大きく変わることになりそうです。そこで、ここでは架空の司法書士事務所における本職と補助者との会話を通して、裁判手続のIT化について考えてみましょう。

司法書士:裁判のIT化では、前回見たような申立ての際のIT化だけではなく、法廷におけるIT化、事件管理におけるIT化も検討されているんだよ。今回は、法廷におけるIT化について考えてみよう。

補助者 :法廷の話となると、補助者の私は、あまり関係なさそうですね。

司法書士:いやいや、そうとばかりは言えないよ。これからは、司法書士事務所が法廷の代わりになることもあり得るからね。

補助者 :えっ。それはどういうことですか。

司法書士:今でも弁論準備手続は、電話会議をすることがあるよね。簡単に言うと、これからは、電話だけでなく、映像も積極的に活用するようにして、さらに弁論準備手続以外の手続、たとえば口頭弁論などにも利用していくことになりそうだよ。

補助者 :先生が、会務でされているテレビ会議みたいなものですか。

司法書士:そんなところだね。ただし、裁判手続のIT化では、裁判所と裁判所とを専用回線で繋いだ会議をテレビ会議、インターネット回線を用いた一般的なテレビ会議をウェブ会議と呼んで、区別しているようだね。つまり、ウェブ会議ならば、裁判所と司法書士事務所、裁判所と申立人のスマートフォンといった利用もできるということになる。

補助者 :期日の度に出頭しなくてもよいとなると、本人訴訟の当事者は随分と楽になりますね。これは、国民にとって、ものすごい朗報じゃないですか!

司法書士:ところが、それもぬか喜びとなってしまうかもしれないんだよ。知ってのとおり本人訴訟は非弁の温床となることが多く、いわゆる事件屋が介在することがあるんだ。だからこそ、私たち司法書士が適切に本人訴訟支援をして、事件屋の排除に努めているんだけれどね。こういった事件屋の介在を防止する観点などから、ウェブ会議を利用する場所を、一定の場所に限定するという案も出ているところだからね。

補助者 :うわぁ。当事者の利便性の向上のためにIT化を目指していると思ったのに、それじゃあ、本末転倒じゃあないですか。

司法書士:するどいね。
裁判手続のIT化によって、原告となる本人は、期日のために仕事を休んで裁判所に出頭しなければならないという制約がなくなる可能性があるし、被告となる本人であれば、訴えられた裁判所が遠方の裁判所で事実上出頭が難しいようなときでも、出頭せずに応訴できるようになれば、土地管轄の定めが不利に働くこともなくなる可能性もある。こういったメリットの芽を議論の早くに摘んでしまっては、IT化の議論は広まらないね。議論を発展させるためにも、こういったメリットを受ける訴訟当事者本人が声をあげていくことが大切になるんだ。

補助者 :ウェブ会議だと、回線の状況によって、画像が荒かったり、はっきり聞こえないようなこともあるのかしら。

司法書士:私が会務でしているウェブ会議では、とくにストレスを感じたことはないね。それに日本の裁判は、事前に準備書面を提出しておいて、期日では、その陳述をするだけということも多いからね。そこが、日本では法廷のIT化をしやすいと言われる所以でもある。

補助者 :尋問も、ウェブでするんですか。いくらなんでもカメラ越しでは尋問で嘘をついている証人を見破れないのではないかと思うんですが。

司法書士:おそらく、規定としてはウェブでの証人尋問もできるとなっても、その利用は相当慎重な運用になるんだろうね。私が代理人だとしたら、IT化された後であっても、証人を法廷に呼び出して証人尋問をすることを求めるだろうよ。

補助者 :今までのやり方とIT化による新しいやり方の両方いいとこどりで裁判ができるといいですね。

裁判手続のIT化をめぐる司法書士事務所の風景(その1)

 2019年には裁判手続のIT化について法務大臣から法制審議会に諮問される見込みです。このIT化により、裁判手続は抜本から大きく変わることになりそうです。そこで、ここでは架空の司法書士事務所における本職と補助者との会話を通して、裁判手続のIT化について考えてみましょう。

司法書士:登記に続いて、いよいよ裁判もIT化されるようだよ。これからは、当事務所でも定期的に勉強会を開いていくことにしましょう。

補助者 :うちの事務所では、すべての登記をオンライン申請していますので、心配ありませんね。

司法書士:いやいや、登記と裁判は、まるで別物。登記は、一回の申請行為で完了するけれど、裁判は基本的には複数回の審理を経て判決に至るうえ、上級審での審理もある。つまり、申請者としても継続的にかかわっていかなければならない手続だからね。

補助者 :なるほど。そのうえ、登記では申請者と法務局の二者だけで完結しますが、裁判では申請者となる原告と裁判所だけでなく、相手方となる被告も登場しますものね。となると、これからは被告もオンラインで応訴しなければならなくなるんですか。

司法書士:その点は、まだ検討中のようだ。オンラインでの応訴を希望する被告は、当然、オンライン手続をすることができるようになるだろうけれど、すべての被告がインターネットを使えるわけではないからね。

補助者 :オンラインにこだわると、いろいろと難しい問題がありそうですね。となると、送達は、今のままでいいんじゃないかしら。

司法書士:申請の際の真正担保も検討されているよ。

補助者 :私たちは、登記で使っている日司連発行の電子署名をすれば、よいんですよね。

司法書士:いやいや。そうとは限らない。未だに電子署名をすることができる人は限られているからね。電子署名の普及率を踏まえたら、本人訴訟で電子署名を要求することまでは難しいんじゃないかな。裁判を受ける権利は憲法でも保障されているほどの大切な権利だからね。

補助者 :たしかに登記でも本人申請でオンラインを利用している人は、個人では、ほとんどいないですものね。

司法書士:それに、裁判のIT化の議論では、代理人などの資格者であっても、電子署名を申請の都度用いるのではなく、登録の際に電子署名による本人確認をした後は、IDとパスワードを発行して、以降は、IDとパスワードによりオンライン申立てを利用できるようにすることも検討されているんだ。添付する登記識別情報一件一件に電子署名したうえ、申請データにも、さらに電子署名する登記のオンラインシステムとは、えらい違いだね。

補助者 :IDとパスワードっていうと、ネットショッピングでログインするような感じでしょうか。気軽な反面、ちょっと怖い気がするけれど、セキュリティは大丈夫なのかしら。

司法書士:まったく、その通りだと思うよ。電子署名の利用とID・パスワードの利用は、相反するものではなく、両立し得るものだ。登記のオンラインシステムが、まさにそうなっているよね。資格者として、インターネット上、真正担保するための手段としては資格者団体による電子署名が最も優れているのは間違いないよ。

補助者 :オンライン申請が主流になると便利になるんでしょうけれども、便利になりすぎて、私の仕事がなくならないか、心配です。

司法書士:登記の場合、出頭主義が廃止されたので、法務局へ申請書を持ち込む人員が不要となったという側面もあるけれど、裁判の場合、最初から申請時の出頭は不要だからね。もっともIT化によって裁判資料として紙をコピーする手間はなくなりそうだから、補助者が一日中裁判の資料をコピーをしているような大事務所ならともかく、一人の補助者が雑多な仕事をしている、うちのような事務所は影響ないと思うよ。
というわけで、これからも、よろしく頼むよ。次回は、IT化による法廷への影響について勉強してみようか。

補助者 :それを聞いて安心しました。次回も、よろしくお願いします。



ランニングにも、法律問題がたくさん!

静岡県司法書士会業務研究委員会内ランニング部です。
 東部の司法書士(赤松 茂・山田茂樹・宮内裕光・築地徹弥)が中心となって、マラソン大会に参加したり、トレイルランニングを楽しんだりしています。東京で研修があるときは、120キロを3区間に分けて駅伝しながら走って向かうことも!
と言っても、走っているだけではありません。
 司法書士として、ランニングに関する法律問題の研究もしています。
 たとえば、マラソン大会にエントリーした後、どうしても参加できない事情が生じたとき、多くの大会規約では、エントリー代が返金されない内容になっています。自己都合による不参加だけでなく、台風等の天災で大会が中止となったときも同様です。
コンサート等では公演が中止になるとチケット代が返金されることがあるのと比べると、ちょっと疑問を感じるかもしれません。
こういう規約内容に果たして問題がないのか等が研究テーマです。
 また、トレイルランニングのコースの多くは私道であり、ほとんどが山林や原野であることから、登記上の名義が正確でないことも珍しくありません。
 これらの登記を正しくし、コースとして利用しやすくするのも、私たち司法書士の役目なのです。

4 裁判手続等のIT化と司法書士が担うべき役割

(1)現行制度における司法書士が担うべき役割
 裁判手続等のIT化は、3つのフェーズにしたがって進められるのであるから、司法書士としても、これに沿って責務を果たしていくことを考えると分かりやすい。
 つまり、フェーズ1の現行制度の活用からである。
 まずは代理人として受任した事件について、事案の性質に応じながら裁判所に働きかけていくことになる。
たとえば、「弁論準備手続」における電話会議は、「遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき(民訴法170条)(下線筆者)」にすることができるのだから、裁判所が遠隔の地でなくとも電話会議をすることを積極的に希望することが考えられる。また、メリハリのある訴訟運営を実現するために、電話会議にしても、「書面による準備手続」によることを求めるのもIT化のためには有益である。
 また、支払督促の依頼を受けた際には、「督オンシステム」を利用し、代理人としての改善案を裁判所に伝えることも挙げられる(技術面は最高裁判所、個別事件の運用面は東京簡易裁判所が窓口となっている。)。
 テレビ会議については、多くの司法書士にとっては、まず地元の簡易裁判所にテレビ会議をすることができる機器の設置を求めていくことから始める必要がある。本来は、より組織的に、日司連が、裁判所に対し、計画的・段階的な設置を求めていくことが望ましい。さらに、日司連が裁判所と協議のうえ、IT化推進モデル地域を設定し、裁判所は、当該地域に優先的にテレビ会議をすることができる機器を設置し、日司連は、当該地域に事務所を置く司法書士に積極的に電話会議・テレビ会議をするよう支援するといった形態が考えられる。
 このように現行制度を代理人として利用しつくした後に、本人訴訟における現行制度の活用という次の段階の対応を考えていくことになる。
 本人訴訟支援では、法的知識・IT知識に乏しい者でも、スムーズに利用できるかという視点から現行制度を見直すことになるのだから、その前提として法的知識・IT知識に長けた代理人が現行制度を使いこなせていなければ、まだ本人訴訟への対応を考える段階ではない。
 ところで、司法書士がする裁判書類作成関係業務においては、司法書士が訴訟記録である電子情報にオンラインで直接アクセスできるかという問題があり、日司連では、これを求める意見書を提出しているところであるが(注)、検討会では、消極のようである(第3、3(1))。
 業務権限に関する議論は、ともすると職域争いの議論と囚われてしまうおそれがあることから、これから開催される法制審議会では、司法書士側だけでなく常に利用者の声を聴きながら、前述の65%程度の本人訴訟に関するIT化支援策の具体案とともに検討されていくべき課題である。

(注)裁判手続等のIT化検討についての意見
http://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/02/7219a3696b25d15a47885bcdd4226ab4.pdf

(2)司法書士会が担うべき役割
 本人訴訟は、司法書士が法的支援として書類作成をする者のほか、司法書士に依頼せず、自らがすべてをする者も相当数いることは既に述べた。
 これらの層については、司法書士個人によるサポートは困難なので、司法書士会・弁護士会・法テラス等の団体がIT化支援をするしかない。
 個々の団体がそれぞれ支援をすることも考えられるし、対応の必要性・規模などからすれば、各団体が一つのIT化支援センターといったものを創設し、そこで一手に請け負うことも考えられないわけではない。
 本人訴訟の数は、将来的に増加することが予想されるのだから、これの受け皿となる団体も、窓口を相当数拡充する体制を整えておくことが必要となる。

(3)まとめ
 昨今、司法書士業務として司法書士法規則31条を根拠とする広範な業務分野がクローズアップされているが(注1)、その根底には、司法書士が専門的な法律知識を駆使できる職能であるとの利用者の期待があるからに他ならない。
 このような期待は、司法書士が長らく登記だけでなく裁判手続にも取り組んできた実績(注2)があるからこそ、寄せられているのである。
 若手をはじめとした司法書士各位は、こういった歴史的背景を忘れることなく、裁判手続等のIT化に向けて、より一層、簡裁訴訟代理等関係業務・裁判書類作成等関係業務に取り組んでいただきたい。

(注1)日司連では、近年、規則31条業務検討委員会が設置され、法的な管財人のほか、私的契約に基づく管財人としての業務などについても検討されている。
(注2)クレサラ運動を含む。

3 裁判手続等のIT化による本人訴訟への影響

(1)「取りまとめ」における本人訴訟対策
 「取りまとめ」では本人訴訟となることが多い消費者の立場から、「代理人として弁護士等が選任されていない本人訴訟のサポート環境が整備されれば、裁判手続において書面の作成・提出や期日出頭の負担が重い本人訴訟の場合等に、負担軽減につながることが期待される(下線筆者)」との意見があり(第2、1(1))、全件IT化のためには、本人訴訟へのサポートが必要であると述べられている。
 こういった意見を受け、「取りまとめ」では、「適切な担い手による充実したIT面のサポート(ITリテラシー支援策)が必要である。」との方針が示されている(第4、1)。
 本人訴訟の支援形態としては、古くから司法書士が書類作成を通じ法的支援を行っているところ、IT化に伴うIT化支援は、法的支援とは異なるものである。つまり、IT化支援に関する限り、法律実務家に限らず、どういった立場であっても本人訴訟の支援をすることができる。
 IT化支援の内容は、具体的には、紙媒体の電子化、電話会議・テレビ会議へのアクセス環境の提供、事件管理の補助などとなろう。
 もっとも法的支援とIT化支援とを明確に区別することは、理論上は可能としても、実務上は困難であることが明白であり、IT化支援の過程で、訴状の内容について本人から助言を求められることなどが容易に予想される。
 となると、IT化支援をする者が、本来意図していない非弁の誹りを受ける可能性も大いにあり、法的リスクが高い業態と言わざるを得ない。
 こういった法的リスクを考慮するならば、IT化支援は、法的支援をする者が併せて行うことが望ましいといえるだろう。つまり、司法書士が書類作成の依頼を受ける際に、当然にIT化支援をするのである。
司法書士が本人訴訟に関与している件数は、本人訴訟全体のうち65%程度と思われるところ(注)、全国の司法書士各位のこれからの対応如何によることになるが、司法書士がIT化において担うべき役割を全うすることができれば、これら65%程度の本人訴訟については、IT化に関する心配をする必要はないと私は確信している。
 しかしながら、本人訴訟の形態としては、司法書士に書類作成を依頼する者のほか、司法書士に依頼せず、すべてを自らがする者がいることも忘れてはならない。これらの層に対するサポート策私案は、後述する。

(注)司法統計23表から本人訴訟の数を求めると、総数14万8016件―双方弁護士数6万4190件=一方もしくは双方本人訴訟数8万3826件となり、日司連が全国の司法書士から集計している取扱事件数集計表のうち書類作成の数は、5万4805件であるので、5万4805/8万3826×100=約65.3%となる(いずれも平成28年度の数値)。

(2)予想される本人訴訟への影響
 裁判手続等のIT化によって、IT化に対応できない本人訴訟についてサポート体制を整えることがまず求められるが、IT化が浸透すれば、裁判所への出頭回数が減るというメリットにより、本人訴訟の件数は増えると思われる。司法書士としての実務感覚としては、裁判所に出頭することが負担だから本人訴訟をせずに代理人を選任するという層も相当数あると感じているからである。
 つまり、裁判手続等のIT化を考える際には、現状の本人訴訟の数を基準に対策を考えるのではなく、IT化により増加する本人訴訟の数を予想しつつ、その数を基準に対策を考えていくべきである。

プロフィール

Author:赤松 茂
あかまつ司法書士事務所
静岡県沼津市下河原町48番地

【TEL】055-963-8002

【Mail】 quick-response@nifty.com

(平成26年5月に事務所移転しました。)

カテゴリ
司法書士 赤松 茂の著書