トレイルランニング大会での死亡事故を受けた後援団体の対応について考える。

 平成29年11月18日に埼玉で開催されたトレイルランニング大会でランナーの滑落死亡事故が起きた。
詳細は、主催者団体のフェイスブックで報告されているとおりである。
https://www.facebook.com/FTR100FT50/

 大会中の死亡事故発生であり、この大会は途中で中止された。本会会においては運営側の事情により、中止もやむを得なかったのだろうと理解しているが、今後の問題として「死亡事故の発生=必ず大会中止」という前例にはなってほしくないと願っているところである。

 さて、この事故を踏まえて、後援団体の1つである秩父市が次のようなコメントを出したと報じられている。
「久喜市長は「事故があったことは翌日の新聞紙上で知った。大会の二日後に主催者側から状況の説明を受けた」と明らかにし、報告が遅れたことを問題視した。その上で「死亡事故はあってはならない」とし、今後大会にはかかわらないことを決めた。」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201711/CK2017112302000144.html

 トレイルランニング大会に限らず、アウトドアスポーツにおいては死亡事故のリスクをゼロにすることは絶対にできない。運営側・参加者の努力によってリスクを限りなくゼロに近づける努力をすることができるのみである。つまり、最小限の死亡事故のリスクは受け入れたうえで、運営され、ランナーは参加しているのだし、後援団体も当然そういった理解が必要である。
 死亡事故が発生したから、今後、後援しないというのでは、100%安全なイベントでなければ講演しないと言っていることと同じであり、換言すれば、秩父市はアウトドアスポーツには一切関わらないと言っているわけである。
 いったんは後援しておきながら、リスクが顕在化した途端に態度をひるがえすのは行政として正しい判断とは思われない。
 後援団体の一つとして、今後、同様の事故が生じないようリスクの減少に努めるという方針があるべき姿なのではないだろうか。
 秩父市の対応は、アウトドアスポーツの健全な発展を阻害することにもなりかねず、徹底的に批判されるべきものである。

横浜マラソンの中止から代金不返還特約について考える。

 平成29年10月29日に開催が予定されていた横浜マラソンが台風22号の接近により、中止された。
http://www.yokohamamarathon.jp/2017/
 参加者2万8000人、参加費1万5000円と大規模大会だったため、その影響も大きいものとなった。中止の発表が前日の17時前後だったことも混乱に拍車をかけたように思われる。(その前の発表では台風が近づいても開催を前提とする発表をしていた。状況が変わったのであれば、もっとリアルタイムに状況を公表しておくべきだっただろう。)

 さて、横浜マラソンの中止を受けて、丹後ウルトラマラソン等と同様に、参加費の返還が問題となるが、この参加費不返還特約が法的には不安定である点は、丹後ウルトラマラソンの際に述べたとおりである。
 今回は、現実的な問題について考えてみよう。

 参加費の法的性質を「大会に参加することの対価」と定義づけるとしたら、大会が開催されない以上、危険負担の原則により、参加費の返還を求めることができることになる。
 しかし、この結論にも違和感がある。
 大会の開催に向けて、相当額の準備費用が既にかかっているからだ。
 大会の半年前にコースを利用できなくなったなどの都合により開催ができなくなったケースと今回のように前日に急きょ開催できなくなったケースとでは現実に要した準備費用が異なるのは当然である。
 大半の参加者は、前日に急きょ開催できなくなったケースでも、参加費の全額を返してほしいとは思っていないだろう。
 そうすると、参加費の法的性質を「大会に参加することの対価(大会の開催費用の負担を含む)」とすべきことになる。

 このように定義するとしたら、次に問題となるのは、大会の開催に向けて現実に要した準備費用の額である。
 これが、ほとんどの大会では公表されていない。だから、有事の際には参加者の不信のもととなる。
 大会の健全運営を示すために、多くの大会では収支を公表し、参加者がエントリーする際の指標のひとつとできることが望まれる。

 ちなみに、収支を公表している数少ない大会の一つである「いわきサンシャインマラソン」によると、平成28年度は、1億4000万円の予算に対し、当日のエイドの飲食サービス費は410万円、警備等の安全対策費は798万円であり、この2つの合計額は予算の10%にも満たない。これらの費用も、前日では支出を余儀なくされるものもあるだろうから、前日の大会中止となると、現実には10%も予算が浮くことはないだろう。収入においても、中止となると企業等からの大会協賛費が減少するおそれがあるから、支出が10%減ったとしても、それ以上に収入が減れば当然赤字となる。したがって、前日の大会中止の際に返金できる額はあっても非常に少額になると思われる。

 重要なのは、返金の額ではなく、主催者は「規約だから一切返金しない」と法的に不安定な規約をたてに参加者に説明するのではなく、実質的な説明をすべきであり、収支の公表など、その体制づくりが急務であるという点である。

丹後ウルトラマラソンの中止を受けて、参加料不返還特約について考える。

 平成29年9月17日開催が予定されていた丹後ウルトラマラソンが台風18号の影響で中止された。
この中止が公表されたのが、同年9月15日のことである。
中止はやむを得ない判断だったとしても、ウルトラマラソンの参加料は高額(本件では、100キロで1万8000円)である。
この代金がいくらかでも返還されるべきではないかとの声も当然あろう。
しかし、現実には、返還は一切行われていないようだ。
そこで、この問題について法的側面から考えてみよう。

大会規則には、次のような定めがある。
http://www.r-wellness.com/tango/about/outline.html
「荒天その他の理由により、大会を一時中断もしくは短縮・延期・中止する場合があります。その場合でも参加料の返金等は一切行いません。」
今回、この定めが適用され、主催者は大会を中止したものの、参加料は一切返金しないとの対応をしている。
https://runnet.jp/report/race.do?raceId=147619
参加料不返還の対応については、このようにランナーからの不満の声も多い。

しかしながら、本条項は、必ずしも法的に有効であると言い切れない。
消費者契約法という法律があるからだ。
消費者契約法8条では、事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効に関する規律が設けられており、消費者契約法9条では、消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効に関する規律が設けられている。また、消費者契約法10条では、包括条項として、消費者の利益を一方的に害する条項の無効に関する規律が設けられているのだ。

大会を開催しないということは、主催者とランナーとの間の出走契約を主催者が一方的に解除するということである。
この解除に際し、参加料を返還しないという事柄を事業者の責任免除と捉えれば消費者契約法8条の適用場面となろうし、消費者の損害賠償の額と捉えれば消費者契約法9条の適用場面となろう。(ただし、本件は、自然災害による主催者からの解除なので、9条の適用場面とはならない。消費者の自己都合解除に適用の余地があると思われる。)これらに該当しなくとも、消費者契約法10条の適用について考えられなければならない。
参考までに、消費者契約法9条1項が適用され、大学の入学金の不返還特約が無効とされた裁判例は、こちら

悩ましいのは、参加料が高額と言っても、訴訟を起こすと間違いなくペイしない程度の額である点だ。
司法判断を仰ぐには、法律実務家がイニシアチブをとって集団訴訟を提起するといった工夫が求められるのだ。
ランニング人口の増加、大会の参加料の高額化などもあり、近い将来、司法判断がなされるだろうが、そうなる前に大会主催者は、自ら規則の見直しを図り、収支についても公表するなどして、合理的かつ健全な大会運営を行ってほしい。

【書籍紹介】民法(債権関係)改正と司法書士実務

 平成29年6月2日に民法(債権関係)の改正法が公布されたことを受け、日司連から改正法対応書籍が出版された。

私も、執筆を総論部分および新旧対照表のコメント等の担当させていただいた。

 アカデミックになり過ぎず、司法書士にとっては、ちょうどよい深さの解説だと自負している。施行までに、ぜひご一読いただきたい。



民法(債権関係)改正法案成立

 平成29年5月26日に民法(債権関係)改正に関する法案が成立した。
提出された法律案から実質的な変更はない。
国会での審議の過程の中では、司法書士が参考人として招致される(平成29年5月11日参議院)など、司法書士界にとっても意義のある成果があった。
施行までの期間は、公布から3年以内である。
おそらく平成32年春になるだろう。
これからは、成立した法案に魂を入れていく作業をしていくことになる。
 日本司法書士会連合会でも、近日、改正法に関する書籍を発刊する予定なので、参考にしていただきたい。

プロフィール

Author:赤松 茂
あかまつ司法書士事務所
静岡県沼津市下河原町48番地

【TEL】055-963-8002

【Mail】 quick-response@nifty.com

(平成26年5月に事務所移転しました。)

カテゴリ