丹後ウルトラマラソンの中止を受けて、参加料不返還特約について考える。

 平成29年9月17日開催が予定されていた丹後ウルトラマラソンが台風18号の影響で中止された。
この中止が公表されたのが、同年9月15日のことである。
中止はやむを得ない判断だったとしても、ウルトラマラソンの参加料は高額(本件では、100キロで1万8000円)である。
この代金がいくらかでも返還されるべきではないかとの声も当然あろう。
しかし、現実には、返還は一切行われていないようだ。
そこで、この問題について法的側面から考えてみよう。

大会規則には、次のような定めがある。
http://www.r-wellness.com/tango/about/outline.html
「荒天その他の理由により、大会を一時中断もしくは短縮・延期・中止する場合があります。その場合でも参加料の返金等は一切行いません。」
今回、この定めが適用され、主催者は大会を中止したものの、参加料は一切返金しないとの対応をしている。
https://runnet.jp/report/race.do?raceId=147619
参加料不返還の対応については、このようにランナーからの不満の声も多い。

しかしながら、本条項は、必ずしも法的に有効であると言い切れない。
消費者契約法という法律があるからだ。
消費者契約法8条では、事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効に関する規律が設けられており、消費者契約法9条では、消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効に関する規律が設けられている。また、消費者契約法10条では、包括条項として、消費者の利益を一方的に害する条項の無効に関する規律が設けられているのだ。

大会を開催しないということは、主催者とランナーとの間の出走契約を主催者が一方的に解除するということである。
この解除に際し、参加料を返還しないという事柄を事業者の責任免除と捉えれば消費者契約法8条の適用場面となろうし、消費者の損害賠償の額と捉えれば消費者契約法9条の適用場面となろう。(ただし、本件は、自然災害による主催者からの解除なので、9条の適用場面とはならない。消費者の自己都合解除に適用の余地があると思われる。)これらに該当しなくとも、消費者契約法10条の適用について考えられなければならない。
参考までに、消費者契約法9条1項が適用され、大学の入学金の不返還特約が無効とされた裁判例は、こちら

悩ましいのは、参加料が高額と言っても、訴訟を起こすと間違いなくペイしない程度の額である点だ。
司法判断を仰ぐには、法律実務家がイニシアチブをとって集団訴訟を提起するといった工夫が求められるのだ。
ランニング人口の増加、大会の参加料の高額化などもあり、近い将来、司法判断がなされるだろうが、そうなる前に大会主催者は、自ら規則の見直しを図り、収支についても公表するなどして、合理的かつ健全な大会運営を行ってほしい。

【書籍紹介】民法(債権関係)改正と司法書士実務

 平成29年6月2日に民法(債権関係)の改正法が公布されたことを受け、日司連から改正法対応書籍が出版された。

私も、執筆を総論部分および新旧対照表のコメント等の担当させていただいた。

 アカデミックになり過ぎず、司法書士にとっては、ちょうどよい深さの解説だと自負している。施行までに、ぜひご一読いただきたい。



民法(債権関係)改正法案成立

 平成29年5月26日に民法(債権関係)改正に関する法案が成立した。
提出された法律案から実質的な変更はない。
国会での審議の過程の中では、司法書士が参考人として招致される(平成29年5月11日参議院)など、司法書士界にとっても意義のある成果があった。
施行までの期間は、公布から3年以内である。
おそらく平成32年春になるだろう。
これからは、成立した法案に魂を入れていく作業をしていくことになる。
 日本司法書士会連合会でも、近日、改正法に関する書籍を発刊する予定なので、参考にしていただきたい。

マラソン大会の出走権特約について

 先日、あるマラソン大会の代理出走が話題となっていた。
 ハーフにエントリーした男性と5キロにエントリーした女性とが、それぞれ入れ替わって走ったというものだ。
 女性のゼッケンで5キロを走った男性が入賞してしまったことで発覚した。
 両名とも失格となったようだ。
 なぜ、失格となったかというと(私自身が確認したわけではないが、おそらく)大会規約で代理出走は認めないとなっていたからであろう。
 代理出走を認めると、緊急時の連絡先が不明となってしまう点、大会記録が不正確となってしまう点などから、この特約自体の合理性はあるといえる。
 同趣旨で、出走権の譲渡も認められていないことが大多数である。

 しかしながら、問題点の本質は、これらの特約の有効性だけにとどまらない。
 本来であれば、出走権のキャンセルによる代金不返還特約についても合わせて考えなければならないからだ。
 市民ランナーとしては、仕事や体調の都合により大会に参加できない事態となっても代金不返還特約によって、エントリー代が返ってくるわけではないので、それならば、もったいないから代わりの人に走ってもらおうと考えるわけである。

 ここで留意しておかなければならない点は、出走しない以上、その対価であるエントリー代は返還されるのが原則であるということだ。
 たとえば、エステに通う契約をして、途中で通えなくなったら、その分は精算して相当額を返還しなければならないというルールも特定商取引法に定められている。
 また、消費者に一方的に不利な特約は、消費者契約法によって無効となるものもある。

 たしかに、大会直前のキャンセルのように、主催者が準備をほとんど終わらせているような段階であれば、エントリー代不返還特約の合理性が認めらるケースもあるだろう。
 しかし、現在まかり通っている特約は、いったんエントリーすると、その時期を問わず、一切返金は認めないという画一的なものである。

 インターネット取引でも、ここまで強硬な特約は、いまどき見かけない。

 こういった特約がまかりとおっているのは、エントリー代が比較的少額である点、契約の相手方となるランナー側の良心による点が大きいだろう。

 このように、これらは顕在化していない法律問題といえそうだが、市民の代弁者であるべき法律実務家としては、出走者側のモラルを批判するだけでなく、こういった大会の代金不返還規約自体の見直しもされなければならないと考える。

最高裁判決を忘れない

 今回の最高裁判決は裁判外の和解に関するものであるため、裁判業務をさほどしない司法書士の中には、関心が高くない方もいるかもしれない。
 しかしながら、司法書士である以上、自分には関係ないでは済まされない。
 この最高裁判決は、司法書士制度の敗北というべきであるからだ。
 繰り返すが、立法当初、適法とされていた解釈が10余年の時を経て、最高裁判所によって覆されたのである。司法制度改革の狭間で、まるで、司法書士制度が揺れ動いているかのように。
 これに司法書士にとって肯定的な意味をあえて持たせるのであれば、それは、この敗北を糧にして、将来的に、司法書士制度が目覚ましい発展を遂げ、失った職域を取り戻すこと、さらには、新たな職域をつかみ取ることである。
 一朝一夕に叶うことではないだろう。
 私自身、この悔しさを胸に秘めながら司法書士として生き、そして、おそらくは無念を晴らす機会に恵まれることのないまま、死んでいくだろう。
 しかし、幾代の後には、司法書士業務のうち、司法判断を仰ぐ場面がまたやってくるはずである。その業務は、裁判業務ではなく、登記業務なのかもしれないし、企業法務、後見業務、31条業務なのかもしれない。
その時まで、司法書士が今回の敗北の悔しさを糧にして絶え間ない努力を続けており、その結果、独自の専門職能として社会から求められる存在であり続けていれば、司法書士制度にとって、きっと今回とは異なる結論が出るだろうと信じている。
 だからこそ、今回の最高裁判決を、裁判業務をする司法書士だけの問題としてはならない。
 すべての司法書士が、この敗北を後世の司法書士に伝えていかなければならないのだ。
プロフィール

Author:赤松 茂
あかまつ司法書士事務所
静岡県沼津市下河原町48番地

【TEL】055-963-8002

【Mail】 quick-response@nifty.com

(平成26年5月に事務所移転しました。)

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